昇進・昇格試験問題の傾向と対策

 昇進・昇格試験の基本は、出題側=経営側の出題に答えることです。この出題は、出題側の現状認識、受験者=昇進・昇格者に何を期待するかによって、千差万別です。もっとも、昇進昇格試験では1年単位ではなく、最低でも5年以上の中長期的な展望に立って、必要な人材を考えます。したがって、経済環境や経営状態がドラスティックに変化しない限り、個々の企業・組織ごとの出題傾向は長期的に安定しているといえます。いわゆる社是や社風が短時間で変わることがないのと同じです。
 昇進昇格試験の受験予定者にとっては、ご自身の受けようとしている昇進昇格試験の過去問を研究することが、もっとも有効な対策になります。ご自身の所属組織がどのような将来への展望をもち、どのような人材を欲しているのかを知ることが大切です。
 以下では最近(2016年以後)、実際に企業や官公庁で出題された昇進昇格試験の過去問から、類例の多い出題を選びました。そしてこれらを分析して、それぞれの出題類型の背景には、どのような意図あるのか、また受験者はどのように対応すべきかを簡単にまとめました。
 ここでは、実際の出題例を紹介しながら、それぞれの背景にある出題側の意図と、受験者として適切な対応を考えて参ります。

なお、以下のご要望には、それぞれ別ページで対応しています。

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Ⅰ.過去実績と将来展望

企業が社員を評価する際、これまでに挙げてきた成果・実績を重視するか、将来を見通した建設的な企画・提案を尊重するか、という大きく二つの方針があります。実際の出題例では、この二つの要素を同時に問われることが少なくありません。しかし、この二つの要素は本来別のものである以上、そのどちらが問われているか、設問から正しく読み取ることが必要です。


1.過去実績重視

例1
 貴方がこれまでに果たした【貢献】について述べよ。(1200字)

例2
 あなたが入社以来今日までに経験した業務に関して、最も重要と思われる問題を取り上げ、それに対してあなたがいかに考え対処したか、簡潔に述べよ。(2000字程度)

 いずれも、解答者が過去に行ったことを問うものです。通常業務で作成する報告書に相当するといえます。これまでの実績を解答者自身がどう位置づけているかを見ることで、組織に対する意識的な貢献を評価します。
 受験者は、将来の展望や今後の計画について触れてはいけないとまでは申しませんが、あくまでもそれは付け足しにとどめるべきです。分量的にも、全体の9割は過去の実績について述べ、将来については1割程度に収めることです。


2.将来展望重視

例3
 10年後の自分

例4
 プロデューサーとして、あなたが将来○○グループ食品を含む○○」グループの中で「実現したいこと」「やりたいこと」(夢やビジョン)を、具体的に、分かりやすく論じて下さい。
その際、実現に向けた計画や手順(方策・スケジュール等)、実現に向けて現在努力していることも分かるように述べて下さい。
 以下記入欄に2枚以内(2400字以内)で記述して下さい。

 1.過去実績重視とは反対に、組織の将来像を問うことで、企画・立案の能力を測ります。通常業務で作成する企画書・提案書に相当するといえます。受験者の対応としては、過去の実績・行動への言及は控えるまたは最低限にする必要があります。この類型への解答は、将来の予測・提案がどの程度現実的・効果的であるか論証するのがポイントです。また、このことが評価の焦点であり、同時に受験者にとって苦労する点でもあります。解答者の思考過程を丁寧に説明する、他部署や他社での成功例などの論拠を用意するといったことで、これを克服します。


3.過去実績と将来展望の融合

例5
 職場の中で得た知識・経験と今後の課題・目標(1200字)

例6
 これまでのあなたの業務を振り返り、今後1年、自分がどうすべきか800字で説明してください。

 過去実績あるいは将来展望どちらかではなく、双方に言及することが求められています。過去を正しく総括し、それを踏まえた適切な将来像を描く力が見られることになります。
 受験者の対応としては、両者の記述の比率は正確に半々である必要はありませんが、過去だけ、あるいは逆に将来だけに偏った記述では、高い評価は得られません。


Ⅱ.業務課題の把握:管理職の役割と理解

 組織の中で有益な活動をするためには、ご自分が配属されている部署の役割や担当している業務内容について正しく理解することが必要不可欠です。多くの昇進昇格試験では、この点を問うています。また、業務内容を理解しているだけではなく、業務上の課題を発見し、それに対する適切に対応することが求められます。
 このとき、同一部署・業務でも、その立場によって求められる理解・問題対応が異なってきます。同じ課に所属していても、一般課員と課長では、求められるものが違うのは当然といえるでしょう。特に、受験者が昇進昇格後に求められることをどう理解しているかは、評価の重要なポイントになります。


1.自部署の課題把握

例7
 自部門における問題点と課題を述べよ。(800字以内)

例8
 担当している業務において改善を要すると考える重要課題を一つ挙げ、その問題の原因を分析し、解決するに足る方策を提示せよ。(1200字以内)

 例7は所属部署の問題点・課題を問う比較的シンプルな出題ですが、例8のように解決策まで要求する場合もあります。いずれの場合にも、解答者の個人的な体験だけではなく、部署全体の構造的・全般的な関係を示す必要が生じます。なお、部署ではなく「あなたのプロジェクトにおいて」といった、現在の具体的な業務内容に即した出題もみれらます。


2.全社的課題・業界動向の把握

例9
 現在の医療環境と当社への影響について述べよ。また、課長代理の立場としてどのような取り組みをすべきか答えよ。

例10
 エレクトロニクス業界の変化、それに伴う自部門を取り巻く環境を踏まえ、自部門の中長期戦略を達成するための課題を分析せよ。その上で、その解決手段とアプローチについてあなた自身が(昇格後)担う自部門戦略に影響を与える役割について具体的に述べよ。

 受験者の所属部署・担当業務を超えたより広い視点から、課題と対策を考えさせるものです。比較的上位の役職・等級を対象とする試験に見られます。急激な技術革新や直近の法改正によって、大きな変化が生じる業界での出題例が多くなっています。受験者にとっては、日常的に業界動向に注目しすることが、何よりの対策となります。


3.役職・等級の理解

例11
 経営職の役割を一般社員との違いを踏まえたうえで、10行程度で記載し、このために自分が経営職として取り組むことについて20行程度で記載せよ。

例12
 組織統括職としてあなたが考える責務と役割とは如何なるものか。目標達成、戦略立案、人材育成の観点から中期的な視野をまじえて論ぜよ。

 役職についての社内規定などを知っていることが前提になります。しかし、それだけでは不十分です。そうした規定をふまえて、受験者が自分の所属部署・担当役割の中で、具体的にどう行動すべきか正しく答えられるかが重要です。このとき例12のように、いくつか論点が指定される出題もあります。


4.業務課題と役割の融合

例13
 市場(環境)の変化の影響を踏まえて、あなたの「拠点(部門)が抱える課題」を取り上げ、課題とした理由を述べ、その課題解決のために今後あなたがⅢランクの立場として、どのように自らの仕事を変化させ実践するのか、具体的に述べなさい。

 Ⅱの視点では、1.あるいは2.3.のいずれか一つだけの出題は多くはありません.これらを融合させ、自部署の問題・課題を明示した上で、解答者の(昇進後の)役職・等級からどう行動すべきかを問う出題の方が多数派です。解答者が個人としての担当業務だけではなく、文書全体を幅広く見通していることが求められています。

 

Ⅲ.組織目標・課題の理解と対応

 企業の業務計画など、会社としての具体的な組織目標を受験者がどのように捉え、具体的な行動・対応をとっているかを問う形式です。中期業務計画など体系的なものから、社長の年頭挨拶や社内報の記事などそのときどきの問題をとったものもあります。また、会社の掲げる標語・スローガンと言った抽象的な論点を提示し、それをどのよう捉えているかを見ようとするものもあります。
 全社的な目標を部門に即して具体化し、組織の末端まで浸透させることは、中間管理職の重要な役割です。とりわけ今日のように企業の業務内容が複雑化・多様化するなかで、一般的・抽象的な形で示される全社的な目標・課題を、個別の部署でどのように具体的な行動指針に反映させるかは、重要な問題になっています。そのため、このタイプの出題は近年増加する傾向にあります。


1.業務計画

例14
 中期経営計画の実現に向け、解決すべき課題は何か、一つを取り上げ10行程度で記載し、その課題に対してあなたが経営職として取り組むことについて全社的な貢献も含めて20行程度で記載せよ。

例15
 当社は事業構造変革を一層加速させ、2020年度に中期業務計画(中計)を達成しなければならない。あなたは当社の管理職として、この中計を実現する立場にある。そこで、中計を意識した変革への施策実行において、下記の4つ(a~d)の基本方針の中から最も重要だと思うテーマを1つ選択してください。
 その上で、①選択した理由を当社における課題を踏まえたうえで示しなさい。②その選択したテーマに対して、管理職としてのあなたの役割と取り組みについて具体的に論じなさい。
 なお①について1000~1200字以内、②について1000~1200字以内で記述しなさい。
(a独自事業の拡大、b既存事業の成長回帰への貢献、c成長領域への注力、d事業基盤の強化)

 会社が掲げる中長期の業務計画に対する理解と具体的対応を書かせるものは、主題が多いだけに、そのバリエーションも豊富です。例14ではシンプルなもの、例15では論点を選択肢の形で指定するというやや複雑なものを示しました。このほかにも出題側の問題意識によって、さまざま変形があります。

 

2.キーワード・スローガン

例16
来期のConcept / Key Word「○○」を念頭に、あなたの職場で今後どのように業務を推進すべきか部門長の立場で論ずること。
例17
当社ミッションステートメントのグループミッションである「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“○○○○”」について、あなたの考え方を述べあなたの職務での具体的な実践方法について論述せよ。
 イメージ戦略として、印象的な短い語句をキーワード・スローガンとして掲げる企業・組織は少なくありません。これをいわゆる業務の成果に反映させるには、個々人の具体的な行動に反映させなければなりません。このとき、キーワード・スローガンと自部署の現状を対応させることが、管理職の重要な職務です。したがって、キーワード・スローガンの抽象的・一般的な説明を知っているだけではなく、所属部署に即して具体的な行動指針とできるかが問われます。

 

3.出題時点で直面する課題の解釈

例18
 当社におけるコンプライアンス教育の課題と達成手段
例19
 あなたの所属する部署(所課・チームなど)において、生産性を改善しながら目標を達成するためにはどのように取り組んでいくべきか、あなた自身の役割も含めて具体的に述べなさい。
 なお、現在所属長ではない方も、所属長の立場から記述すること。
 2.と類似していますが、出題される組織・企業内だけで重視されている概念ではなく、社会一般で注目されているものを論点にしてする出題です。「生産性」といった古典的なものから、「働き方改革」など時事的なものまで、取り上げられる概念は多様です。ただし、毎年古典的な概念を出題する組織と、時事的な問題を好むものとがあります。
 試験対策としては、出題される可能性のある概念を考えて、その一般的な意味・定義を押さえておくとともに、ご自分の所属部署・担当業務に即した具体的な考えをまとめておくことです。

 

Ⅳ.資料読

 資料を提示してその読解を前提にして、設問に解答する形式も、比較的上位の昇進昇格試験に多く見られます。実際の試験では、①資料を読み、自宅で答案を作成して会社側に提出する、②資料を自宅で読んできて、試験場で受験生全員が一斉に解答する、③試験場で資料を配付しそこで初め資料を読んだ解答する、といった形式になります。
 いずれの形式でも、資料に対する読解力が重要になります。ただ、ここで誤解されている方が多いのですが、初等・中等教育(小学校~高校)の読書感想文で求められるものとはいささか異なります。あくまで、設問が要求する視点からの内容理解です。また、解答者の所属部署・担当業務と関連づけることも必要になります。

 

1.試験以前に参照が必要:課題図書など長大なもの

例20
 当社を取り巻く環境変化が著しい現在、会社が持続的成長をしていくためには、我々が変化に適応し、一人ひとりが常に考え、行動していかねばならない。そして、各々が高い当事者意識のもと、中期経営計画の実現に拘りを持って挑戦し、あなた自身が強いリーダーシップを図っていくことが求められる。
 以上を踏まえ、あなたは所属組織を俯瞰した際、何を変えるべきと捉えているか、率直に述べなさい。そしてあなたは、その変化を通じてどのような成果を出していくか、イノベーターシップの観点や自身が変わることも含め、あなたの実践的なアクションプランを論じなさい。
参考課題図書『イノベーターになる』

論文作成・評価に関しての注意点
1. 作成
(1)論文課題及び課題図書に基づき、1000 字以上 1200 字以内の論文を作成します。
(タイトルが必要になります)
(2)課題図書はあくまでも著者の捕えた外部環境や、これからの時代におけるひとつの提言ですので、ご自身の考えが重要になります。
(3)事実だけのまとめや感想文にならないように注意してください。
(4)論文内容は自己の業務の捉え方がポイントとなりますので、現在の業務及びこれからの業 務について今一度考察してください。
(5)文章は簡潔・丁寧に書き、推敲不足にならないよう予め心がけてください。
(2.評価基準以下は省略)

 読解すべき資料として書籍などを指定する場合には、試験場ではなく自宅で読んでくる場合がほとんどです。資料の分量から読解に掛かる時間からいずれの形式でも、資料に対する読解力が重要になります。ここで紹介した例20では、指定図書の読み方とそれをどう答案に反映させるか、出題側からヒントが出されています。このようなヒントがない場合でも、課題図書の内容報告だけを求めているのではない以上、大図書の内容を紹介しつつも、解答者独自の主張・見解を答案に盛り込まなければなりません。

 

2.試験場で資料配付:社内資料やマスコミ記事など短いもの

例21
 次の文章は、計画の振り返りと修正の大切さについての社長メッセージからの抜粋です。文章を読んで、下の設間に答えなさい。
≪2016年1月に社内掲示された社長メッセージからの抜粋≫
(資料本文は省略)
【設問】
(1)あなたが所属する組織における、2017中計の組織目標を1つ挙げ、それに対する取り組みテーマを1つ挙げなさい。その上で、抜粋文の趣旨を踏まえて、これまでの取り組みを振り返り、当初の計画に対して修正を行うべき点を簡潔に説明しなさい。
(2)設問(1)で挙げた組織目標を達成するために、設問(1)での振り返りを踏まえ、今後どのような取り組みを進めていくか、具体的に述べなさい。
その際に、あなたがSL等級としてその取り組みを実行するにあたり、
①あなた自身が持つ知識・技術、情報をどのように活用するか
②組織内でどのような役割を果たし、どのように組織メンバーヘ働きかけるか
を明確に記述しなさい。

例22
<設問1>
 本社グループ、ないしはあなたの事業部において、現状と解決すべき課題について、どの記事を参照したか触れながら、3~5つあげなさい。なお、回答は抽象的にならないように気をつけなさい。(1000文字程度)
 ※新聞・雑誌の記事など5本の資料が提示されているが、省略
<設問2>
 設問1にてとりあげた課題の中で、最も重要となるものはなにか、背景と理由をあげ、どう取り組むべきか述べなさい。(800文字程度)
<設問3>
 設問1,2にてあげた課題に対し、自分がどうリードしていくか、また関係者をどう動かしていくか述べなさい。(1200文字程度)

試験時間にもよるが、試験場で数百字~2000字程度の資料を配付し、その読解をさせる出題形式です。例21のように1つの資料を提示する方が多数派です。ただし、受験者数が少ない比較的上位の昇進試験では、例22のような多様な資料から解答者自身が問題を発見・設定する形式です。例22タイプは解答者にとって難問であるだけではなく、採点・評価も難しいのですが、経営側に参加できるような高い能力の持ち主を見つけるためには有効です。


3.ケーススタディ

例23
登場人物:
X営業部長;自分の営業スタイルと同じように働くことを部下に強制しており、(以下省略)
N第一グループ長;(本課題の回答者視点、Aの成果を正しく認めている立場)
入社5年目の平社員A;仕事は良くできると周知されているが、(以下省略)
入社5年目の平社員B;仕事は良くできないと周知されているが、(以下省略)
AはX部長から常日頃から「気配りがなっていない」「反抗的だ」などとキツい言葉を貰っているが、本人は反論せず沈黙を貫いている。「部長のいうことは筋が通っていないことが多いから気にしていません」と本人は達観している様子。
ある日、G社の大型案件をAが受注してきて(以下省略)
(1)Nグループ長の立場であるべき姿と現状を対比させながら問題を書け
(2)Nグループ長の立場で原因の分析と、短期的対策と中長期的対策を箇条書きしなさい。

 架空のモデルケースを提示することで、受験者の所属部署・担当業務による有利不利を最小化できる出題形式です。例23は営業・販促部門の事例ですが、工場など製造・現業部門や社内事案の調査など総務・人事部門の事例もあります。一般的に商社など製造部門を持たない企業では、工場の出題はされないなど、現実の業務内容とかけ離れた出題はされません。しかし、昇進後に移動する可能性がありますので、受験者は総務・人事部門でも営業支店での事例が出題される、といった例は多々あります。
 以上から、ケーススタディ型では、出題企業の業務内容は反映されますが、受験者個々人の担当業務までは考慮されない、というのが原則です。

 

Ⅴ.その他の出題形式

 Ⅰ~Ⅳで昇進昇格試験の9割以上に及びますが、技術者向けの社内資格・新会社移籍に伴う役職決定・非正規から正社員への契約変更など、特殊な目的の沿った出題がなされています。