2027年度入試の状況④

2027年入試を取り巻く状況について、近年の入試動向をもとに説明します。

目次
第1回:少子化でも入試が容易にならない、むしろ難しくなっている?
第2回:上位校の入試が難化する三つの理由 ―大都市集中・共通テスト・推薦シフト
第3回:採用現場で進む「学歴フィルター」の精緻化と 入試方式の影響
第4回:AIとジョブ型採用が大学選びに突きつけるもの〈今ココ〉

AIとジョブ型採用が大学選びに突きつけるもの

 第1回の記事「少子化でも入学が容易にならない、むしろ難しくなっている?」ならびに関連する記事で取り上げてきた構造変化の中でも、本稿で扱う「AIの普及」と「ジョブ型採用の拡大」は、若年層の雇用構造そのものを書き換えつつある最も深刻な要因です。それは、受験生にとって「どの大学に入るか」だけでなく、「何を学んで、どんな職に就くか」という問いそのものを揺さぶる動きでもあります。

米国で先に表れた「最初の仕事」の消失

 米国では、生成AIの普及が若年労働者の雇用に与える影響が、すでに統計的に観察され始めています。リクルートワークス研究所が2025年8月に掲載した連載記事は、ニューヨーク連邦準備銀行の分析を引きつつ、新卒大学生の失業率が5.8%に達し、全体の失業率との差が広がりつつあることを伝えています(注1)。同記事は、生成AI企業AnthropicのCEOダリオ・アモデイ氏の「今後5年以内に、ホワイトカラーのエントリーレベル職の半数がAIによって消滅する可能性がある」という発言、ならびにGoogle社が2024年に「社内コードの25%以上をAIが書いた」と報告したことを紹介し、これまで若者が実務経験を積む場であった「最初の仕事」そのものが急速に縮小しつつあるという論点を提示しています。 これを実証データで裏付けたのが、スタンフォード大学のエリック・ブリニョルフソン教授らが2025年8月に発表した論文「Canaries in the Coal Mine?(炭鉱のカナリア?)」です。同論文は、米国の大規模な給与データを分析し、2022年後半以降、生成AIの影響を受けやすい職種に従事する22〜25歳の若年労働者の雇用が、影響を受けにくい職種の同年代の雇用に比べて、相対的に約13%減少していることを示しました(注2)。

日本でも始まっている事務職の削減

 「米国の話で、日本はまだ大丈夫」というのは、もはや安心材料にはなりません。日本でも、大企業を中心に、AIによる事務業務の代替を見越した人員計画の見直しが始まっています。ITmediaの2026年3月の記事によれば、米Amazonが約3万人規模の人員削減を公表する中、日本のみずほフィナンシャルグループは、今後10年で事務職の業務量を最大5,000人分減らす方針を示しました。経済産業省も、生成AI・ロボットの活用が進展した場合、事務職では2040年に437万人が余剰になると推計しています(注3)。 大和総研の主任研究員・新田尭之氏は2025年9月のコラムで、こう書いています。「相対的にAIの導入に慎重で、労働市場が硬直的な日本では、米国ほど急進的な変化は短期的に表れにくい。しかし、米国で起きていることが日本の数年先を映し出す『炭鉱のカナリア』である可能性は否定できず、エントリーレベルの仕事が生成AIに奪われ、若者が実務経験を積む機会そのものが失われるという本質的なリスクは、日米で共通の課題である」(注4)。

ジョブ型採用の拡大と「育てる採用」の縮小

 雇用構造の変化はもう一方向からも進行しています。職務内容を最初から定めて採用する「ジョブ型採用」の拡大です。HR総研の調査によれば、大企業のジョブ型採用導入予定率は、2025年卒採用で約49%と、ほぼ半数に達しています(注5)。JAC Researchの「日本のジョブ型雇用の実態調査2025」でも、従業員1,000人以上の企業でジョブ型雇用の導入率は29.5%となり、前年から着実に上昇しています(注6)。ジョブ型採用は、即戦力性のある中途採用と親和性が高く、結果として、これまで日本企業の典型であった「分野を問わず新卒を一括採用し、社内教育を経て戦力として配属する」モデルは、特に大手で縮小しつつあります。日立製作所、資生堂、富士通などの大手企業がすでに新卒採用段階から職務や報酬を個別に設定するジョブ型へ移行しており、「とりあえず採用して社内で育てる」というかつての日本型雇用は、確実に過去のものになりつつあります。

受験生・保護者にとっての含意

 これらの変化が意味するのは、新卒採用の段階で一定以上の学力・専門性が期待できない学生の就職は、今後より厳しくなっていくということです。AIに代替されにくい高度な専門性や、ジョブ型採用で評価される明確なスキルセットを身につけるためには、入学先の大学・学部の選択が、これまで以上に重い意味を持ちます。

 「上位校を目指す」ということは、単なるブランド志向ではなく、AI時代の雇用構造の中で、自分が立てる場所を確保するための合理的な戦略でもあります。WIEで再挑戦される方の中にも、こうした問題意識から、もう一年腰を据えて学び直す道を選ばれる方が増えています。

 本サイトの一連の記事で見てきたように、現在の大学入試の難化は、入試制度の中だけで完結する問題ではありません。少子化のはずなのに上位校が難化している背景には、受験生の動向、企業の採用基準、そしてAIとジョブ型採用による雇用構造の変化という、互いに連動した三つの大きな潮流があります。WIEでは、こうした構造変化を踏まえつつ、各受講生が自身の進路と向き合えるよう、引き続き入試情報の収集・分析と、丁寧な受験指導に取り組んで参ります。


注1:リクルートワークス研究所「第15回 AIで削られていく若者の雇用『最初の仕事』が消えていく影響」(竹田ダニエル氏執筆、2025年8月) https://www.works-i.com/works/series/from_usa/detail015.html
注2:Brynjolfsson, E., B. Chandar, and R. Chen "Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence," Stanford Digital Economy Lab Working Paper, 2025 https://digitaleconomy.stanford.edu/publications/canaries-in-the-coal-mine/
注3:ITmedia ビジネス「中間管理職は『中間経営職』へ AI時代、ホワイトカラーに問われる『役割再定義』」 https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2603/27/news014.html
注4:大和総研 新田尭之「生成AIが狭めかねない大卒ホワイトカラーのキャリアパス」(2025年9月) https://www.dir.co.jp/report/column/20250924_012324.html
注5:HRプロ「2025年卒採用で重視する施策は『自社採用ホームページ』、AI導入の状況は?/HR総研:2024年&2025年新卒採用動向調査(6月)結果報告」 https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=366
注6:JAC Research「ジョブ型雇用の今 2025/日本のジョブ型雇用の実態調査」 https://research.jac-recruitment.jp/information/1265/