添削の種類と具体例

WIEでは、大学・大学院入試対策ビジネス文章・実用文章・昇進昇格試験対策学術論文対策など、多様な文章の添削指導を行っております。以下では、その特色と具体例を紹介します。

添削の種類

単独添削再添削の2つがあります。

 単独添削

・1つの課題に対する答案を1回だけ添削します。
・改善すべき箇所とその理由を指摘し、具体的な改善案を示します。
(出題と答案がかけ離れている場合など、改善方針だけで文例を示せないことがあります。)
お時間のない方、大きな修正は不要という方にお勧めします。

 再添削

・1つの課題に対する答案を2回添削します。
・1回目の添削では、設問文・課題文の理解や、考え方の問題点を中心に指摘します。
・2回目の添削では、1回目の指摘が理解できているか確認し、細かい国語表現を修正します。
問題の考え方、論旨の構成法など、小論文の力が確実にアップします。

 

添削の具体例①.大学入試

実際の添削例は以下のようになります。

①設問文のみからなる出題

①東京藝術大学(美術学部芸術学科:2019年)

 最新年度の過去問ですが、「鏡」をどう扱うか、皆さん苦労されています。18年の「金」に続いて、あるいはそれ以上に扱い難いテーマだと言えます。
 通信欄でご質問をいただいておりますが、設問の要求が「美術と鏡について自由に論じなさい」という抽象的・一般的なものですので、これに対応する具体的なものであれば何を採り上げてもよいことになります。設問の要求が漠然としていますので、それに反しない範囲であれば、解答者の議論しやすい題材を選んでよいのです。知識として知っている・実際に見たことがある作品であれば、議論の材料が豊富にあるでしょうから、鏡の利用法を題材にされたのは、適切な選択だと思います。
 なお、まだ19年課題の提出者は多くないのですが、他にも『ラス・メニーナス』を採り上げた受講生がいます。設問の要求は「美術」ですから、工芸作品や建築などでもよいのでしょうが、芸術学科ということもあり平面芸術(絵画)を挙げている方がほとんどです。ちなみに、van Eyckの『アルノルフィニー夫妻の肖像』や van Gogh他の自画像を取り上げている例もあります。逆に工芸や建築は難しいのか、今のところ具体的な作品を挙げている例はありません。

 さて、お送りいただいた答案は、初回提出から合格圏と申せます。解答者の用意した事例は設問の要求する「美術と鏡」に対応しており、それを分析・解釈する視点や方法も適切です。
 したがって、採点上大きな問題になる箇所はありません。実際の試験場では制限時間がありますので、これ以上の完成度を求めるべきではないでしょう。時間切れになり、未完成の状態で提出するようなことは避けるべきです。もし時間があるようなら、誤字脱字の確認などをすべきです。
 ただ、今回は時間が自由に使える在宅での演習ですので、さらなる高水準を目指して、改善を考えましょう。

(解答本文は省略)

(添削コメント)
A:今回、私が第一に考えた改善点です。現在の答案では、鏡に関する作品を一つ取り上げて、それを分析・考察する形です。制限時間のある入試小論文では、時間に併せて途中で打ち切っても、全体の論旨に矛盾や飛躍が生じにくい方法です。
 ただ、逆に言えば全体を統一する視点がない書き方でもあります。これに対して18年出題の答案では、先に「金」に関する一般論を示した上で、それに妥当する具体例として作品をあげ、その分析・考察をしていました。
 こちらの形ですと、一般論で挙げた特性に対応する作品を取り上げないうちに時間切れになる、といった危険があります。しかし、論文としての完成度は、個々の作品をバラバラに取り扱う形式よりも高くなりますね。
 今回は、この構成に挑戦していただきましょう。答案の*をした箇所は、「鏡」の「美術(作品)」に対する効果・利用法といえますね。これをここにまとめましょう。例えば、次のような書き出しです。
 鏡の美術作品での効能として、絵画なの平面芸術では、二次元空間を三次元に拡張する機能がある。また立体芸術では、光を反射する性質を利用して……といった形です。100~200字を目安に「美術と鏡」の関係を概観する段落を一つ設けましょう。
B:制限字数がありませんが、Aで字数が増えますので、他の箇所はできるだけ簡潔にしました。なお、Aで用いた重要概念(論点)を答案の他の箇所でも統一的に使用するなど、Aにともなう調整に注意してください。
C:一文が長いと、論旨が読み取り難くなりますので、私ならここで文を切ります。
D:Aの改善によっては、概念の変更が必要になるかも知れません。例えば、Aで「立体作品」という概念を使用したのであれば、ここも同じ概念で統一しましょう。
E:誤りではないのですが、どのよう美術的効果があるのか、位置付けがやや曖昧です。Aで立体作品に対する鏡の意味や効果を整理する際、再検討してください。
F:大変興味深い作品の例ですが、それだけにもう少し丁寧に分析・考察をしましょう。この作品は、物体としての鏡は用いず、鑑賞者の持つ鏡に関する常識的な意識を利用している点が重要です。こうした鑑賞者の意識構造との関係を指摘しますと、優れた作品論になると思います。こうした作品の本質は既に理解しておいでのようですが、もう一息言語化・概念化の工夫をしてください。
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
 すぐれた作品鑑賞・理解の力をお持ちですので、それを文章化することをもっと研究して欲しいと思います。もっとも、このお願いは大学受験の水準を超えているかもしれません。大学のレポートなどで初めて必要になる視点といえます。難しいかも知れませんが、是非再添削ではこれに挑戦してください。

②設問文と課題文からなる出題

②東京学芸大学(E類ソーシャルワーク前期:2019年)

●提出いただいた答案を拝読しました。設問が要求している論点について論述を展開できています。しかし肝心の論述に、確からしくない、または共有できない前提、誤謬推理、意味の取れない文章が混在しているため、論旨の一貫性を欠いています。したがって、残念ですが合格圏とは言えません。以下詳しく説明していきます。

■答案に対するコメントは、小問ごとに解説の後にまとめてあります。ABC・・・, abc…の記号は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

(解答本文は省略)

(添削コメント)

a:不自然な表現です。「反論している」や「批判している」ならば意味は通りますが、たんに「指摘している」だけでは、何を指摘しているのか分かりません。適切な表現に改めて下さい。

b:段落が改められていないこともあり、どこまでが課題文の要約で、どこからが解答者自身の見解なのか分かりません。印をつけた箇所から解答者の意見の論述が始まると推測し添削を行っていますが、再提出では適宜段落を改めてください。

c:ここでどうして段落が改められているのか分かりませんでした。不要と思われるので、つなげてください。

A:共有できない前提です。人間にこのような本能があるという考えは、一般的に共有されている見解でもなければ、科学的知見でもありません。また、「近く似たものどうしが親近感を持ち、共通の習慣や文化ができ、国や言語が生まれた」という(これ自体疑わしい)考えからも導出できません。もしどうしてもこういった主張を行いたいのであれば、十分な論拠を提示してください。私としては、このような考えを論証するのは困難ですので、削除をお勧めします。

B:「したがって」という推論の帰結を表す接続語を用いていますが、推論が破綻しているため有効ではありません。「自分に近い者とグループをつくり、そしてそれ以外を排除しようとする」とのことですが、ここで言われている「近い」というのが類似性を意味するのか距離の近さを意味しているのかも曖昧です。
また、「障碍者が差別的な目を向けられてしまうのは~隔離された環境で育つからだ」とのことですが、むしろ逆に「差別的な扱いを受けているから隔離されている」とはどうして言えないのでしょうか? このように、因果関係の向きを決定するための議論も不足しています。(小)論文において論証が破綻・不足していることは評価の著しい低下につながりますので、注意して論を進めてください。

d:このままでは読みづらい印象を受けましたので、修正しました。

C:「知ること」と「理解」を異なる意味で用いているようですが、それぞれにどのような意味の違いをもたせているのか、読み取れませんでした。各々の語のここでの意味について、もう少し説明が欲しいところです。

D:内容に大きな誤りがあるわけではありませんが、これまでの議論とは異なる論点を唐突に提示しており、前後の議論との関連性が見えません。「遠くにいるひとに対する理解」と「正確な知識」との関連性について説明する議論を加える必要があります。

E:設問の趣旨から大きくずれているわけではありませんが、設問は対策案を求めているわけではないので、記述の優先度は高くありません。上記コメントの修正等で文字数が超過する場合は、この箇所を削除するとよいでしょう。

 添削は以上です。以上のコメントを参考にして、答案を修正してください。再提出をお待ちしています。

③膨大な課題文を多様な視点から検討させる出題:文系

③慶応大学(SFC総合政策学部:2019年)

●この年度の慶應大学総合政策学部の小論文試験では、「問題の発見・分析」の能力を中心にして、受験生の能力を試しています。

●提出していただいた答案を拝見しました。まず問題(1)については、挙げるべき資料を挙げていないことから、減点される可能性があるものの、問題(2)・(3)・(4)については、概して優れた出来映えです。解答者は、確実に小論文作成能力を向上させていると申せます。
 以下では、答案に沿ってコメントします。

■答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますので御参照ください。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。


設問(1)

(解答本文は省略)

(添削コメント)
  10のリスクと関連する資料を挙げることが、求められています。それぞれのリスクに対する認識次第で、取り上げるべきか迷う資料が複数あるので、明確な正解がない印象があります。大学の採点基準を知りたいところです。
ただし、関連が薄くても、関連づけできる資料と判断した場合は、なるべく答案用紙にその資料番号を記載するべきだと思います。なぜなら、それにより資料を丁寧に読んで考察したことをアピールできるからです。
 提出していただいた答案で、選択して書き込んだ資料名については、リスクとの関連が強く適切なものと申せます。以下では、解答者の書き込んだものに加えて、私ならどのように書き込むかを説明します。なお、私が示すものが、大学側が設定する採点基準で、全面的に正解になるとは限らないので、この点はご了承ください。

資料A:サイバー犯罪の検挙数に関する資料です。サイバー犯罪による盗難は、不正取引・組織犯罪・不正行為等を含む、「不正経済」のリスクと強く関連しています。

資料B:世界の水資源利用に関する資料です。「水」に言及していることから、私なら「水、食料、エネルギー」のリスクに盛り込みます。

資料D:難民の増加を示す資料です。難民となる理由として、その国にいると、戦争や紛争により生命の安全が確保できない場合もあれば、経済的な豊かさを求めて、他国に逃げる場合もあります。
 前者の難民の原因となる戦争や紛争は、国連軍やPKO等の国際組織の介入により鎮静化可能な場合もあることから、国連軍やPKO等の仕組みが機能不全に陥る、「グローバルガバナンスの破綻」が関与していると考えることが可能です。
 後者の難民(経済難民)については、その背景に「(国家間の)経済格差」があると申せます。

資料E:栄養不足人口の地域別割合を示した資料です。中国やインドのように、人口の多い国で栄養不足の人たちが多いことを踏まえると、「人口動態の課題」が関与していると判断することが可能です。

資料G:この図では、いろいろ問題の相互関係が示されています。図で言及されている項目と関係するリスクをすべて挙げていくと、「経済格差」・「グローバルガバナンスの破綻」・「水・食料・エネルギー」・「人口動態の課題」・「資源安全保障の問題」となります。

資料I:安全な飲料水にアクセスできる人口割合を示した資料です。その国に、安全な飲料水があっても、人口が非常に多いため、安全な飲料水だけでは、飲料水が不足してしまう場合があります。この場合、やむを得ず安全ではない飲料水を利用することになります。このように考えると、「人口動態の課題」も関係していることになります。

資料J:世界株式市場と経済政策不確実性指数のグラフです。経済的に脆弱な地域(アジア・ロシア・ギリシャ)は、好景気になると世界の投資マネーが集まる一方で、不景気を察すると急速に世界の投資マネーが逃げて、金融危機の発端になります。この背景に、「(国家間の)経済格差」と「マクロ経済の不均衡」を挙げることができます。

資料K:食料供給の偏りを世界地図で示しています。食料に言及していることから、必ず「水・食料・エネルギー」に盛り込みたい資料です。
 人道支援の関連から、国際機関が食料援助をすべきなのにできていないと考えれば、「グローバルガバナンスの破綻」も含めることができるでしょう。また、その地域の食料生産力と比較して人口が多すぎると考えれば、「人口動態の課題」が関連すると考えることは可能でしょう。

資料N:世界の核弾頭保有状況に関する資料です。核弾頭は、大量破壊兵器にあたるので、必ず、「大量破壊兵器」のリスクに盛り込みたいところです。なお、国際的な協力で核軍縮を進めるべきなのに、できていないと考えれば、「グローバルガバナンスの破綻」が関連すると考えることは可能でしょう。

資料O:永住移民流入数に関する資料です。労働移民は、より経済的に豊かな生活を求めた移民なので、「(国家間の)経済格差」が強く関連します。

資料P:世界のエネルギー自給率と一次エネルギーの輸出を、世界地図で示しています。
「水・食料・エネルギー」及び「資源安全保障の問題」と強く関連しています。

資料Q:石油・原油・天然ガスの地域別の生産と消費に関するグラフです。「水・食料・エネルギー」及び「資源安全保障の問題」と強く関連しています。


設問(2)

(解答本文は省略)

(添削コメント)
  答案の内容としては、文句なしの合格答案です。以下では、修辞(文章表現)の問題に限定して、コメントします。
A 漢字を盛り込んで正しく表記すると、「にも拘わらず」となります。ただし、このように表記すると読めない方も多いので、ひらがなで「にもかかわらず」と表記することをお勧めします。

★この設問については、修辞(文章表現)を修正して再提出する方法が一つです。もう一つの方法は、「経済格差」以外のリスク、具体的には、「サイバーセキュリティ問題」か「人口動態の課題」について論じた別解を作成して提出されても構いません。
 どちらを選ぶかは、解答者にお任せします。

★★この設問は、資料を活用して議論を構築する能力が試されています。本年度の設問の中では、最も難しい設問であるものの、これまで過去問を解いていた解答者にとっては、それほど難しくない設問だと言えるでしょう。


設問(3)

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 合格答案であるものの、知識が少し古いので、減点される可能性があります。

A 完全な間違いではないものの、テロリストの場合は、「(非合法)活動」と表現するのが一般的です。

B 各国でのIS鎮圧作戦が成功し、IS自体は、相当弱体化してきています。このことから、この記述は、知識が少し古いことになります。ただし、テロ問題をリスクとして挙げること自体は、問題ないでしょう。設問には、「現在の世界でリスクとなっている事例」とあるのですが、現在の範囲を長めの期間に解釈して説明すれば、良いでしょう。

【答案例】
 現在の世界のリスクとして、テロ問題を挙げる。テロ組織がISとして国家樹立を宣言し、中東の広範囲で猛威をふるったのは最近のことだ。確かに、軍事的な掃討作戦により、ISの活動自体は沈静化に向かっているものの、中東には、過激なイスラム主義を信奉する者も少なくなく、また、米国の覇権主義を快く思わない人々が多い。こうしたことから、テロの潜在的リスクは増加したままである。

★再提出時には、「テロ問題」で書き直すか、あるいは、別の問題を取り上げて議論するか、どちらかを選択してください。

★★この設問では、(世界の)社会問題に関する関心の有無が試されています。


設問(4)

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 設問の指示する手続きに従って議論していることから、合格答案だと申せます。

★この設問では、設問の指示に従って、理路整然とした議論を構築する能力が試されています。知識の深さや詳しさは、それほど重視されていないはずです。
 視点を変えた別解を作成されても結構ですが、少々難しいかもしれません。この設問については、無理に別解を作成して提出する必要はありません。

 以上のコメントとテキストの解説を参考にして、答案を修正してください。
再提出の答案を、楽しみにお待ちしています。

④課題文が英文である出題

④京都大学(薬学部特色入試:2019年)

 この論文試験は、制限時間が3時間(→入試要項で確認のこと)と、大学入試としては非常に長時間の過酷な試験となっています。集中力が持続できる時間は、通常60分~90分とされているので、バテて放り出したくなる衝動を我慢して、与えられた設問と格闘し続ける「知的体力」が求められることとなります。
 集中力が切れた後に、ある程度「放心状態」あるいは、「中だるみ」の時間が必要になってしまうのは致し方ないものの、そこから短時間で気合いを入れ直して、再び与えられた設問と格闘するように努めてください。

●先の説明と矛盾するようですが、過去問演習の初期段階では、試験問題の難易度把握のために、時間をあまり気にせずにとことんまで考えるようにしてみてください。その中で、本番の制限時間では、どの程度まで深く思考して答案を作成することが現実的か、解答者御自身で決めていくように努めてください。なお、過去問演習の初期段階で制限時間を気にしすぎると、深く考えることを拒否する癖がついてしまうので、好ましくありません。深く考える訓練を通じて、試験問題の難易度をある程度以上に把握できるようになった後で、制限時間内に答案をまとめる作戦を練るようにしてください。
 添削では、解答者が深く考える訓練を補助するために、出題意図と、提出していただいた答案の問題点を、説明して参ります。最終的な試験本番での答案作成方針、つまりどの程度まで深く考えて答案に反映させるか、また、どの程度以上の難しさは、制限時間の関係から、答案に反映するのをあきらめるか、といったことは、解答者御自身で決断していただく他ありません。
 この点をご了承の上で、弊社WIEの添削を活用ください。

●京都大学側は、学力の高い受験者集団の中から、合格者を厳選しなければならないので、大学受験生には相当酷、あるいは無理難題とも思える試験問題を用意して、待ち構えています。私が受験生だったころの学力では、試験問題と格闘する気力が喪失するレベルの出題です。
 そうした中で、解答者は、はじめての過去問演習としては、大健闘されたと申せます。特に、英文読解が前提となる問題Ⅰについては、非常に優れた出来映えです。これだけ、英文の課題文を正確に読めるのであれば、大学進学以降に、勉強や研究をするのに必要な情報を英文から集めるのに、大きな苦労をすることはないでしょう。
 一方で、自然科学的思考力が試される問題Ⅱは、正解に至っていない解答が散見されました。ただし、そもそもの出題が、大学受験生には相当酷、あるいは無理難題とも思える難易度なので、解答者がここまでの水準の答案を作成したことは、上出来と言えるかも知れません。
 先に申したように、京都大学側は、学力の高い受験者集団の中から、合格者を厳選しなければならないので、受験者間で点差が開きやすいように、作問をします。従って、受験者が満点近くの答案を取ることを、そもそも想定しておらず、通常は、6割程度得点できれば、合格者に分類される程度の難易度となるように、設問を設計します。結果的に合格する受験生を含めて、試験問題に相当苦戦すると感じるのは、むしろ当然なのです。
 こうした状況下にあることを踏まえて、同じ枠を争う他の受験生との競争に勝つべく、一点でも多く点数を取る努力をしていただきたいと存じます。

●以下では、設問ごとに検討します。

■答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますので御参照ください。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。


問題Ⅰ

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 課題文では、自然科学の文献を統計的に分析して、研究動向を調査しています。

問1
 課題文の内容を踏まえて、説明することが求められています。ここまで説明できれば、十分でしょう。合格答案です。内容そのものは、申し分ないので、以下では、修辞(=文章表現)の問題のみ指摘します。

a 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

問2
 同様に、課題文の内容を踏まえて、説明することが求められています。ここまで説明できれば、十分でしょう。合格答案です。

a 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

問3
 妥当な解釈でしょう。解答者自身が理解できているだけでなく、読み手にわかりやすく説明することに成功しています。文句なしの合格答案です。

a 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

問4
 課題文を踏まえて、解答者の見解を述べることが要求されています。課題文の内容をどのように踏まえたか、書き忘れてしまう受験生が多い中で、解答者は、課題文の内容をどのように踏まえたかを明示しており、丁寧に議論しています。この点は、大変素晴らしいと申せます。解答者の提案も妥当な範囲であり、文句なしの合格答案です。

a 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

b 段落を改める際の原則は、あくまでも「書き込んだ内容」=「書く前に頭の中で整理した視点や問い」が変わる箇所で入れる、と心得てください。無意味に改段するのは、読み手が文の論理を把握するのを妨げ、文の評価を下げますので有害です。また文脈が大きく転換しているにもかかわらず、段を改めないのは、同様に有害です。
★一段落の適切な長さがどの程度かは、論者により考え方が異なりますが、150~250程度とするのが、お勧めです。


問題Ⅱ

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 同種の実験に取り組んだことがないであろう受験生に、短時間で今回の実験の趣旨を理解するように求めるのは、相当に酷です。さらに言えば、実験の趣旨を理解できたとしても、答案作成には。非常に高度な自然科学的思考力が要求されます。
 私は理系の大学院を修了しています。大学院を修了した者の一部は、製薬会社に就職するような学部学類です。そうした私でも、短時間でこの難易度の問題を全問正解する自信は、正直ありません。出身が農学系なので、薬学系ほどに有機化学を詳しく勉強したわけではないのですが、今回扱われているものは、非常に高度な、大学院入試レベルの思考力を要求される出題に思えます。

 受験生が答案作成に臨む姿勢としては、そもそも満点を取ることが期待されていないことを踏まえて、次のようにするべきでしょう。
(ⅰ)比較的易しい問題を見つけて、確実に解く。
(ⅱ)難問も白紙での提出を避け、救済措置狙いで、必ず何か書く。

 提出していただいたものは、白紙で提出した問題がなく、大変素晴らしいと申せます。確かに、誤答も含まれるものの、この難易度であれば、誤答であっても、救済措置が発動して、部分点をもらえる可能性が濃厚です。

問1
(1)
 ATP類似化合物と、ATPの構造の違いに注目して、解答すると良いでしょう。妥当な説明であり、正解です。

a 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

(2)
 ATP類似化合物1~3と、ATP類似化合物4~12の構造の違いに注目して、解答すると良いでしょう。妥当な説明であり、正解です。

a 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

問2
 図5をザックリとみると、キナーゼXと改変体Aは、ATP類似化合物1~12に対して、似たような低い阻害率を示します。一方で、改変体Bは、ATP類似化合物1~12に対して、高い阻害率を示します。
 ATP類似化合物は、すべてATPより分子量が大きいので、ATPがはまる鍵穴の部分の大きさを比較すると、キナーゼXと改変体Aが同程度の大きさで、改変体Bがそれより大きい鍵穴で、ATP類似化合物がはまりやすい程度の大きさあることがわかります。
 なお、ATPの阻害率に関してのみは、改変体Bは、改変体Aより低い値になっています。これは、鍵穴が大きすぎるとはずれやすいからか、あるいは、ATPとの結合部の分子の電荷の偏り(極性)が、キナーゼXと改変体Aが同程度で、改変体Bがこれとは、大きく異なる結合部の分子の電荷の偏り(極性)になっているからでしょう。

A 図5の分析が甘いことが原因で、正しい推論をしていません。なお、実際の試験であれば、救済措置で部分点を与えられる可能性が濃厚です。

問3
 実験1で、ATP類似化合物4~12を用いると、図3に示されているように、リン酸化タンパク質がほとんど検出されません。このことは、リン酸化タンパク質の合成の補因子として、ATP類似化合物4~12は、機能しないことを意味します。これに対して、ATP類似化合物1~3は、溶液に加えることで、リン酸化タンパク質の合成量が増えます。さらに、ATP類似化合物の一部をチオリン酸基に置換すれば、チオリン酸化タンパク質が合成されることになります。以上より、実験3で、チオリン酸化タンパク質を後ほど抽出して分離したいのであれば、ATP類似化合物1~3を使う他ないことになります。
 次に、実験2では、阻害率が高いほど親和性が高いので、図5のATP類似化合物1~3のデータを用います。阻害率がもっとも高いのは、ATP類似化合物2と改変体Bの組み合わせです。この組み合わせが、最もチオリン酸化タンパク質の合成量が多いことになります。以上より、最適な組み合わせは、ATP類似化合物2と改変体Bの組み合わせということになります。

B 誤答としましたが、改変体Bを選択し、その理由として妥当な説明をしていることから、実際の試験であれば、部分点を与えられる可能性が濃厚です。

問4
 各画分に含まれるペプチドを説明することが求められています。実験の説明を丁寧に追えば、正解にたどりつくことができます。こうした、比較的易しめの問題で確実に得点することが重要です。提出していただいたものは、文句なしの合格答案です。

問5
C 実際の試験であれば、甘い採点基準が採用されて、正解扱いとなる可能性があります。ただし、こうした設問では、約束事として、実験担当者の不手際による失敗は、本質的な問題として扱いません。本質的な問題は、実験計画そのものが含む問題であり、実験担当者がどのような熟練者でも、うまくいかないことを意味します。

★ATP類似化合物2と改変体Bの組み合わせ実験をした場合に発生しうる問題として次のものが挙げられます。

(1)ATP類似化合物2のバンドと、ATPのバンドを比較すると、ATPは、満遍なくバンドがでています。このことから、ATP類似化合物2が関与できないタンパク質のリン酸化が存在することがわかります。

(2)ATP類似化合物2の一部をチオリン酸基に置換することで、少しですが分子構造が変化します。これが影響し、本来キナーゼXがリン酸化に関与していたタンパク質に、関与できなくなる可能性があります。

(3)キナーゼXと、改変体Bは、一部アミノ酸の置換があり、分子構造が異なります。これが影響し、本来キナーゼXがリン酸化に関与していたタンパク質に、改変体Bが関与できなくなる可能性があります。

 他にも挙げられるかも知れませんが、本質的な問題として、以上のものを挙げることができます。リン酸化(あるいはチオリン酸化)されたタンパク質の合成量を増やすために行った分子構造の改変が、本来のキナーゼXが持つ、タンパク質の選択性を変えてしまう可能性があるわけです。

 以上を踏まえて答案を修正してください。
 再提出の答案を心よりお待ちしています。

⑤図表の読解を必要とする出題

⑤筑波大学(理工学群社会工学類推薦:2019年)

●筑波大学理工学群社会工学類の推薦入試では、毎年のように数学や数値を道具として用いて、社会事象の分析及び未来予測をすることができる素養があるかどうかを試しています。これを実践するには、次の三項目が重要です。

(1)数学や数値を道具として用いる能力
 より具体的に説明すると、統計図表の正しい読み取りや、数式の処理を迅速に行うことです。

(2)数学的な処理の結果を、社会事象に適用できる視野の広さ
 いくら数学が得意でも、数学の世界の中だけで満足していれば、社会工学を志す者としては、適性がないことになります。数学的な処理の結果が、注目した社会事象の中でどのような意味を持つかを考察する姿勢が極めて重要です。

(3)取り扱われる社会事象について、最低限の一般知識を持つこと
 最低限の一般知識とは、高校を卒業した者なら当然定着していることが期待される知識という意味であり、具体的には、公民科の政経分野や現代社会分野の知識が該当します。なお、公民科の倫理分野の知識は、社会工学科では、問われないはずです。
 統計図表を読み取る場合は、その年度に日本社会でどのような大きな出来事があったか(例:2011年東日本大震災/1991~1993年バブル崩壊)を知っていると解きやすくなる場合があります。第二次世界大戦後の日本の歩みについて、公民科の政経分野や現代社会分野を利用して、ザックリと学習しておいてください。公民科の教科書や資料集を(繰り返し)流し読みしておくのがお勧めです。
 社会工学類の小論文で扱う社会事象について、専門家でないと知らないような高度な知識は、現時点で不要であるものの、最低限の知識がないと、統計図表の数値推移の背景や、数学的な処理の結果がもつ意味を、考察することができません。

●提出していただいた答案を拝見しました。概して優れた出来映えとなっています。ただし、この年度は、他の年度と比較して解きやすい問題になっているので、油断せずに対策を続けるようにしてください。

●それでは、早速ですが、提出していただいた答案に対して、設問ごとにコメントをして参ります。

■ 答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますので御参照ください。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。


問1
図1に示されている政治形態の変遷が、実際の舗装道路ネットワークの変遷に影響したかを、仮想的な舗装道路ネットワークの変遷と比較しながら、論じることになります。提出していただいた答案は、ほぼ文句なしの合格答案です。

(解答本文は省略)

(添削コメント)
A 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

a 持って回った表現です。簡潔に述べることが出来るにもかかわらず、わざわざ無意味な記述を連ねるのは、文の印象を大きく損ないます。これは、本来書くべき自分の主張や意見、またその論証が足りないために、無用な言葉を入れておいただけ、との印象を読み手に与えかねません。書くべき事柄は必要なだけ書き、無くてもかまわない=文意が変化しない事柄は一切書かない、これは論作文の大原則なのです。

b 読点が不足しています。読点(、)をどこで用いるか、との原則は難しいところですが、文脈が変わる箇所、主部と述部の間、目的語(「~を」で終わる部分)の後には入れておくのがセオリーです。また、一文の中で一カ所も読点がないのは、読み手に対する配慮を欠きます。よほどの短文でない限り、1つは入れておきましょう。


問2(1)
 「道路支出指標」の定義に基づいて、指標の値の意味を考察することが求められています。提出していただいた答案は、ほぼ文句なしの合格答案です。

(解答本文は省略)

(添削コメント)
A 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

B 接続詞を入れることで、文と文の関係が明確になり、論旨が明瞭になります。

a 助詞の用い方を丁寧にしましょう。たった1字ですが、内容を読み手にわかりやすく伝えるための工夫です。

問2(2)
 図3を活用して、政治形態と道路支出指標の関係を考察し、説明することが求められています。提出していただいた答案は、ほぼ文句なしの合格答案です。

(解答本文は省略)

(添削コメント)
A 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

B 短い間隔で同じ助詞が連続すると、読み手が論旨を把握しにくくなります。この、問題を解決するため、代替表現を用いました。

a 読点が不足しています。読点(、)をどこで用いるか、との原則は難しいところですが、文脈が変わる箇所、主部と述部の間、目的語(「~を」で終わる部分)の後には入れておくのがセオリーです。また、一文の中で一カ所も読点がないのは、読み手に対する配慮を欠きます。よほどの短文でない限り、1つは入れておきましょう。

b 持って回った表現です。簡潔に述べることが出来るにもかかわらず、わざわざ無意味な記述を連ねるのは、文の印象を大きく損ないます。これは、本来書くべき自分の主張や意見、またその論証が足りないために、無用な言葉を入れておいただけ、との印象を読み手に与えかねません。書くべき事柄は必要なだけ書き、無くてもかまわない=文意が変化しない事柄は一切書かない、これは論作文の大原則なのです。


問3
 問2と似た問題ですが、注意すべき項目が増えて、より複雑な考察・説明が求められることになります。制限字数内に簡潔にまとめるのには、相当苦労する設問ですが、うまくまとめることができています。ほぼ文句なしの合格答案です。

(解答本文は省略)

(添削コメント)
A 段落冒頭に、一マス分のスペースを設けてください。長文を書く際のルールです。

a 読点が不足しています。読点(、)をどこで用いるか、との原則は難しいところですが、文脈が変わる箇所、主部と述部の間、目的語(「~を」で終わる部分)の後には入れておくのがセオリーです。また、一文の中で一カ所も読点がないのは、読み手に対する配慮を欠きます。よほどの短文でない限り、1つは入れておきましょう。

b 持って回った表現です。簡潔に述べることが出来るにもかかわらず、わざわざ無意味な記述を連ねるのは、文の印象を大きく損ないます。これは、本来書くべき自分の主張や意見、またその論証が足りないために、無用な言葉を入れておいただけ、との印象を読み手に与えかねません。書くべき事柄は必要なだけ書き、無くてもかまわない=文意が変化しない事柄は一切書かない、これは論作文の大原則なのです。


問4(1)
 与えられた文章の数式化と、証明が求められています。文句なしの合格答案です。

(解答本文は省略)

(添削コメント)
※このままで、模範解答と言えるレベルです。修正は不要です。

問4(2)
 数式を操作する能力が、主に求めれています。答案作成方針はこれで良いもののの、最後の最後に説明でミスをしています。答案作成が終わっても、時間の許す限り見直しを行い、ケアレスミスを減らすことに努めてください。

(解答本文は省略)

(添削コメント)
A 説明にミスがあるので、修正しました。
 以上を踏まえて答案を修正してください。
 再提出の答案を心よりお待ちしています。

⑥英語での回答を必要とする出題

⑥慶応大学(文学部自主応募推薦:2016年)

 今回が初めての提出になりますので、慶應大学文学部自主応募推薦の出題傾向を簡単に見ておきましょう。この総合考査Ⅰでは、大学入試小論文としてはかなり長い課題文を読まなければなりません。しかも、エセーや講演記録など、論文としての構造が明確でないものが多いのが特徴です。
 例えば本年の課題文も、終章=まとめからの出題ということもあり、これ以前の各章で行ったであろう個々の論題に対する丁寧な論証は省略されています。また、議論が多岐に亘り、論点が絞り込まれおらず、散漫な印象を受けられたことと思います。
 そのため、課題文の論旨(=重要概念の相互関係)を読み取ることが、やや難しくなります。また、解答の制限字数が比較的短く、要点を絞った記述をしませんと、設問の要求に応えられません。
 一方、ほとんどの年度で、設問1・2は「説明」を要求するものになっています。したがって、基本的には課題文の内容を整理した要約をすることになります。逆に言えば、解答者独自の主張や見解を書くと減点の対象になります。また設問3・4は、課題文の一部を指定した翻訳問題であり、大きな特徴になっています。ここで高い評価を得るには、英語の語彙や文法の知識だけではなく、課題文の論旨を正確に把握することが必要になります。

 お送りいただいた答案は、誤字脱字を含め国語表現に大きな問題はありません。また、設問の要求にも基本的には正しく応えています。設問の要求を無視した、いわば見当違いの答案が少なくないなか、この点は高く評価できます。実際、いくつかの設問では、初回提出から合格圏と申せます。昨年度までの受講生のうち、最終的にめでたく合格された方の受講開始時と比べましても、平均以上の水準と申せます。
 したがって、全体を通して注意していただくような根本的な問題はありません。早速、設問ごとに詳しく見て参りましょう。

 答案に対するコメントは、小問ごとに解説の後にまとめてあります。abc……の記号は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。


設問1

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 2015年の設問1も同じ形式なのですが、課題文の一部を傍線で指定して、「どのように異質なのか」「説明」を求めています。
 多少受験テクニック寄りの解説になりますが、設問文が傍線などで課題文の一部を指定しているときは、その部分も設問文と「両者」の「異質」性に対する考えを「説明」することになります。現在の答案は、この設問の要求に従って、課題文から適切な重要概念(論点)を抽出し、その相互関係(論旨)が正確に再現されています。初回提出からギリギリですが、合格圏と評価できます。
 ギリギリと評価しましたのは、合格圏となるための最重要概念とその相互関係は答案に盛り込まれていますが、それに次ぐ重要性を持つ概念が、いくつか見落とされているためです。このことは、致命的な減点につながるものではありません。また、制限時間のある実際の試験では、無限に推敲することは出来ません。そのため、現在の答案と同程度の水準で問題はありません。
 しかし、在宅での演習では、時間に余裕がありますので、出来るだけ完成度を高めるようにしましょう。このことが、限られた試験時間でより高水準の答案を書く力を養うことになります。

A:現在のままでも、減点にはならないかもしれませんが、傍線部=設問文ですから、そこにある重要概念は、答案で必ず言及すべきものとなります。したがって、「両者」は必ず採り上げるべき概念ですが、これは傍線部の直前にあるとおり、「○○な関心」「××な関心」という形になっています。これを答案に反映させましょう。
a:受験テクニック的な指摘になりますが、設問文・課題文の重要概念はできるだけそのまま使用するのが、設問の要求に的確に応えるコツといえます。
B:課題文では、単に時間の長さだけではなく、「時間の深さ」「深層の時間」といった概念を指摘しています。いわば量的な相違だけではなく、質的な相違=「異質性」を示しています。確かにこれは、『火の鳥』という手塚治虫氏個人の作品を論じた箇所ですが、それでも「民俗学的・歴史学的な関心」と関係が深いと思われます。
C:Bと対応しますが、「近代科学的な関心」における「時間」の特質は、量的な「短さ」だけではありません。適切な概念を課題文から探して、ここに盛り込んでください。
D:この部分に大きな問題はありませんが、これに対応する長期的な(「千年後」)対応が、「民俗学的・歴史学的な関心」からは可能ではないでしょうか。*部分に、こうした記述を補うことを検討してください。
b:ここで、「民族学的・歴史学的な関心」から「近代科学的な関心」に内容が転換しますので、段落を改めましょう。
 なお、よく「1段落は○○字程度がよい」とか、「全体が××字なら、△個ぐらいの段落に分けよう」といった指導をする添削講座や参考書があるようですが、段落の構成は、字数で考えるよりも、内容で考えてください。
c:この部分はいわゆるまとめに当たりますね。まとめでは、①それまでに取り上げた最重要概念(論点)とその相互関係(論旨)を繰り返す(論旨の確認・強調)、②論証をしない記述です。従って、ここまでの改善によって論点や論旨が変更になれば、それに併せてこの部分も手を入れる必要が生じます。
 さらに、この部分は、省略することも可能です。①であれば他の箇所と重複しますし、②であれば論文としての論証を欠く部分となります。いずれにせよ、字数に余裕がない時には全面的に割愛しても、全体の論旨に影響しない箇所なのです。
 ここまでの改善で制限字数を超過するようなら、ここで調整してください。
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。


設問2

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 15年の設問2では、「あなたの意見」も要求にありましたが、本年の出題では、「著者の主張に基づいて説明」することしか要求されていません。したがって、解答者独自の見解や解釈を書きますと、大きく減点されます。
 現在の答案は、設問1に続いて、初回提出からギリギリの合格答案といえます。ここで、ギリギリと判断しましたのは、設問1同様、最重要概念ではないものの、第二義的に重要な概念に見落としがあるからです。また、叙述の順番にも、改善の余地があります。

A:課題文の要約では、叙述の順番を原文と変更してはいけない、とまでは申せません。ただ、原文の論旨=概念の関係がよほど錯綜しているといった場合を除き、原則として変更すべきではありません。叙述の順番が、事態の時系列に沿った整理になっていたり、重要性の順を示している事があるからです。
 ここも、課題文の叙述に沿って、「第一のポイント」としている※部分の後、Xに移動すべきでしょう。
B:課題文と同じ概念を使用していますが、少しずつその相互関係=論旨を変更しています。例えば、*「困難な性格を持っていた」→「困難に直面」、**「普遍性への志向ゆえに」→を「普遍性を持ち」、といった変更がなされています。いずれも致命的ではないものの、減点の対象になる可能性があります。これ以外の点も含め、極力忠実に課題文の概念およびその相互関係を答案に反映するようにしてください。
C:Aで取り消し線をした部分をここに移動しましょう。同時にBでの指摘と同様の問題が起きています。ここも例を挙げておきますと、「原初的な自然信仰」と「普遍宗教」=「枢軸時代ないし精神革命において成立した諸思想」との関係です。これら「諸思想」が「自然信仰」を「否定的に捉えた」といった関係が答案にはありません。「背景」だったとしていますが、これでは課題文の内容とは食い違います。
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。ここは、課題文をじっくり再読して頂きたいので、細かい改善方針には触れませんでした。いわばヒントだけですが、ご自身で具体的な文案を考えてください。


設問3

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 小論文試験で英文課題文を読ませる例はかなりありますが、和文英訳を課すのは珍しく、慶應大学文学部自主応募推薦の特色といえます。この出題では、これまでの受講生の答案と実際の受験結果から、かなりの意訳でも合格圏のようです。ただ教科としての英語以上に、前後の文脈を理解しているかが重視されます。
 現在の答案は、合格圏と申せます。ただ、語彙の選択や文法的に微妙な箇所があります。もっとも、中には文章の個性や好みというべきものありますが、細かく見ていきましょう。

A:*部分とusが重なりますので、私ならLet'sは用いません。「ほしい」の意味をもたせるなら、Pleaseを用いる方法もありますね。
B:これでは誤訳とまで申しませんが、訳語の選択に改善の余地があります。thing(which)を主語にするなら、「存在し続ける」に当たる動詞を考えてみましょう。あるいは、人々(people)や私たち(we)を主語として、「人々(私たち)が保持し続けている」といった構文にしても良いでしょう。なお、完了形にしたのは大成功です。
C:「忘れている」「知らない」が、一つのthingに対して同時に起こるのでしたら、andですが、どちらか一方であるなら、orだと思います。
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。


設問4

(解答本文は省略)

(添削コメント)
 ここは設問3と同程度に評価できます。受講生全体の平均以上によくできていると思います。ただし、ケアレスミスと思われるものを含め、いくつか改善の余地があります。

A:featのスペルミスだと思います。feastですと「宴会」といった意味です。なお、偉業=exploitにしても良いですね。
B:人間集団という意味でclusterとしたのでしょうがpeopleなどとしても良いですね。もっとも、*と同語の重複を避けたのでしょう。
C:うまく意訳していますが、homo sapiensを使っても良いでしょう。
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
 初めてとしては、高水準のスタートです。それだけに再提出答案を拝見するのが楽しみです。

※各講座の紹介ページにも、添削例を掲載しています(一部掲載していない講座もあります)。志望先の過去問添削例をご覧になりたい方は、講座一覧より、ご希望のページへお進みください。

 

添削の具体例②.昇進・昇格試験

昇進・昇格試験の評価ポイントは多岐にわたりますが、重視されるのは、
①設問の要求に正しく対応していること
②論旨構成が適切になされていること
の2点です。これらに失敗している答案の添削例を紹介します。

①設問の要求に正しく対応していない例

 設問文の重要概念である【重要概念】とご自分の役割が関係づけられない、とのことですが、これは出題側からみますと、致命的な減点要素となります。厳しい言い方になりますが、出題側=経営側が重視している問題を通常業務の中に位置づけられないのですから、ご自身の担当業務が、全社的な視点でどのような意味を持つのか理解していないことになります。これでは、後輩や部下の指導に際して、作業手順と言った機械的な指導は出来ても、業務の意味などは教えられないからです。
 もっとも、所属部署・担当業務によっては、全社的な方針との関係付けが難しい場合も少なくありません。ただ、それでも全社的な方針・目標とご自身の業務がどう関係しているかを考えることが、社内で背金にある地位に就く=昇進・昇格の絶対条件になります。 また、経営陣も全社的な方針を設定する際、出来るだけ社内の全部署に関係させようとします。そうでなければ全社的な方針とは言えませんし、関係が無いと判断した部署では、社員の士気が下がってしまいます。
 御社ではその点を留意して、【重要概念】をさらに3つの側面に分けておいでですね。
【重要概念A】現場のニーズに応えます。
【重要概念B】各人が能力を最大限に発揮します。
【重要概念C】未来の社会を切り開きます。
 逆に言えば、3つの側面に沿って【重要概念】を分析し具体化していけば、ご自身の所属部署・担当業務との関連づけが可能だと思います。

 ここからは、お送りいただいた答案を見て参ります。冒頭では厳しいことを申し上げましたが、御社に限らず全社的な方針の理解を前提とする出題では、皆さん苦戦しています。このような出題に対しては、設問文が使用している重要概念、とりわけ全社的な方針・目標・スローガンが、実際の業務ではどのような具体的課題となって表れるかを把握することが、設問の要求に応える大前提になります。しかし、多くの人は自分の担当業務に対して、所属部署内での位置付けは理解していても、全社的なそれは意識していない場合が少なくありません。お送りいただいた個人報告書で、「組織を見渡す視点」「極めて狭い範囲での取り組み」といった指摘があるのは、この問題と関係があります。
 そこで、まずは設問文に立ち返って、答案で答えるべきことは何かを核にしてみましょう。設問文の重要概念(論点)に①②③……の番号をつけてみます。
■ ①10年後の社内外の環境の変化を踏まえ、②組織の【重要概念】を具体的に述べよ。
■また、③AI(主任)役割としてそれを④伸長していくための方法を、⑤時間軸を明確にして具体的に書きなさい。
 そうしますと、答案は次のような構成になるはずです。
1.解答者による①10年後の社内外の環境の変化の予測
2.①の予測の中で必要となる②組織の【重要概念】のための施策。「具体的に」とあるので、解答者の具体的な業務に関係する施策となります。
3.2の施策の実現=④伸長していくための方法を述べます。このとき、あくまで解答者個人が③AI(主任)役割を果たす、具体的な行動です。しかもそれは思いつくままに羅列するのではなく、最終的に②が達成されるまでの段階を踏んで、すなわち、⑤時間軸を明確にして具体的に述べなければなりません。
 例えば、情報の集中・共有による効率化といった④伸長していくための方法であれば、次のような記述になるでしょう。
段階1:個別の業務案件毎の改善案を統一書式に整理してコンピュータに登録する。
段階2:非効率に気付いた社員は、登録されたデータベースか類似の事例を探し、迅速に 対策が立てられるようになる。
段階3:非効率に気付くたびに個別に対応するのではなく、データベースを解析することで非効率を産む自部署全体の業務慣行や手続きの不備を分析し、根本的な解決策を立てる。
段階4:自部署で非効率が生じる構造的原因を明確にし、他部署と共有することで全社的な非効率の見直しを進める。
 ……といった具合です。さらに③AI(主任)役割として統一書式の作成、業務慣行や手続きの不備を分析、などががあるでしょう。その一方で、他部署と共有するために部署の長同士で会議を開くのであれば、それはAIより上位の管理職がすべきことになるかも知れません。
 さて、出題側の意図の確認、さらに設問文の分析から答案で何をどのような順番で書くかを考えてきました。現在の答案は、大枠ではこの構成に近いのですが、①10年後の社内外の環境の変化の予測が大雑把であり、さらにここで何をすることが②組織の【重要概念】になるのか、ほとんど考察されていません。
 したがって、単にご自身の所属部署で取り組んでいる事例を紹介しているだけで、それが設問の要求する④伸長していくための方法といえるのかどうか、考察されていません。設問の要求に関係ありそうなそうな事例が並んでいますが、関係づけそのものが不十分なのです。
 以上の問題点を克服するためには、設問の要求=書けと要求されていることに遡って再検討し、全面的に書き直して頂くことになります。そのため、具体的な改善案ではなく、問題点の指摘と、考え方のヒントを示す箇所が多くなります。
 答案に対するコメントは、添削本文の後にまとめてあります。ABC……の記号は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

(解答本文は省略)

(個別のコメント)
A:設問文の重要概念①に対応する記述です。しかし、考察が不十分だと思われます。10年後には、ご自身の所属部署・担当業務に限っていろいろな変化が考えられると思います。以下、私なりに挙げてみます。
1)電気自動車の普及など動力システムの変化→6)環境負荷の軽減にも関連
2)自動運転など走行・操縦システムの変化
3)拠点向上の海外展開。中国→東南アジア→南アジア→アフリカ
4)労働力の変化:外国人労働者・高齢者再雇用・女性の進出
5)雇用形態の変化:働き方改革・勤務時間の柔軟化
6)環境負荷の軽減:生産の省資源化→低コスト化 この他にもご自身の所属部署・担当業務から重視すべき①10年後の社内外の環境の変化があれば、メモとして列挙してください。
 次にこうした「環境の変化」が、②組織の【重要概念】にどのように関係するかですが、これに関しては【重要概念】を【重要概念A】【重要概念B】【重要概念C】の3つの側面から検討します。
 例えば、1)2)は消費者という「現場」のニーズに応えるものですから【重要概念A】の分野で【重要概念】となることに関係します。
 4)5)は労働者(従業員)も「現場」に含まれますので【重要概念A】でもありますが【重要概念B】の側面が強いですね。
 逆に【重要概念C】の観点から見ますと、1)6)は環境問題の点で、3)は発展途上国の経済向上の点で、「持続可能な社会」に貢献します。
 ここまでが、設問に答えるための下準備です。②の組織が御社全体を指すのか、解答者所属部署を指すのか曖昧でが、③AI(主任)役割、あるいは⑤時間軸を明確にして具体的とありますので、基本的に解答者個人の行動が問われています。そこで、下準備で挙げた①10年後の社内外の環境の変化によって必要になる、②組織の【重要概念】は、基本的に解答者の所属部署・担当業務に関係する分野に限定してよいことになります。
 以上から、答案の冒頭は、例えば次のような構造になるでしょう。
第1段落;①10年後の社内外の環境の変化
 1)~6)で挙げたような事例で、御社が対応すべきものを挙げます。
第2段落:②組織の【重要概念】 第1段落で挙げた「変化」の中で、解答者の所属部署・担当業務に関係し、かつ【重要概念】に関係する項目を挙げる。その際、なぜをそれを取り上げるか=所属部署・担当業務との関係を説明する。これ以外の構成案でも構いませんが、まずは設問の要求に対応した構成と内容にしましょう。
B:大きく取り消し線をしましたが、現在の記述が適切かどうかは、Aの改善次第です。Aで、現在の答案と同じ「環境変化」を指摘し、かつそれが解答者の所属部署・担当業務と関係付けられれば、この部分は生きてきます。
 逆にAで取り上げる「環境の変化」が現在と変わってきますと、大規模な書き直しになります。
C:この部分は、ABの改善次第です。ただ、現在のBを前提にした場合、概念の関係付け=論旨の構成が不十分です。例えば、※※※の「新たな素材や技術を提案し、顧客のニ-ズに応え」は前段落の**新材料や技術の供給と対応してます。同じく、※※※※ビジネスを創ることは、*新規事業やサービスを創る「提案型ビジネス」と関係するでしょう。しかし、※取引先や海外現地法人とのネットワ-クや、※※多岐にわたる商品知識の強みは、これに対応する「環境の変化」が存在しません。したがって、答案の論旨から逸脱した概念(論点)であり、設問の要求との関係づけのない議論になっています。こうした記述は論旨の混乱・破綻として、大きく減点されることになります。
D:Aでもコメントしましたが、設問の要求する「組織」の範囲が曖昧です。この曖昧さを避けるために、解答者の方で概念規定をするとよいでしょう。なお、これはあくまでも私が一般論として想定したものです。御社内で「組織」の範囲をどのように規定しているか、社内文書などでどう扱っているかを参照して、正確に規定してください。
E:ここも取り消し線をしましたが、Bと同じく内容それ自体の問題より、他の箇所との関係付け=論旨構成が不適切なためです。「軽量化」「エレクトロニクス」は、**新材料や技術の供給に対応しますので、※※※「新たな素材や技術を提案し、顧客のニ-ズに応え」とつながっています。そこで、「環境の変化」のなかで、【重要概念】を実現するために※※※を位置付けることが出来れば、この段落の記述はほぼ現在のまま活かすことができるでしょう。しかし、A・Bで※※※の位置付けをしない、あるいは現在と大きく変わるようでしたら、この部分は全面的な書き直しになります。
F:以下の記述は、ここまでの改善で取り上げている事例が、設問の要求と適切に関係付けられなければ、全面的な再検討が必要です。したがって、現時点では内容に踏み込んだ改善案は示すことが出来ません。国語表現などの細かいコメントが多くなりますことを、ご承知おきください。
G:Dと使用概念を統一しましょう。重要概念をみだりに言い換えますと、概念の関係=論旨が読み取りにくくなります。もっとも、長い概念が何度も繰り返し出てくるのは、読みにくい上に、制限字数のある試験答案では、字数の無駄です。このあたりのバランスに留意してください。
H:段落を改める際の原則は、あくまでも「書き込んだ内容」=「書く前に頭の中で整理した視点や問い」が変わる箇所で入れる、と心得てください。無意味に改段するのは、読み手が文の論理を把握するのを妨げ、文の評価を下げます。また文脈が大きく転換しているにもかかわらず、段を改めないのは、同様に評価を下げます。
I:所属部署ではごく一般的な略語なのでしょうが、読み手=採点者への配慮に欠けます。特に昇進・昇格では、自部署以外の人が採点者になりますので、彼(女)らに理解できない語を使うのは、減点の対象になります。特に管理職に昇進後は、他部所と連絡・調整が重要な仕事になりますので、自部署内のみに通用する略語や隠語を使うのは、禁物です。 もっとも、社内報など全社員を対象にしている文章で使われている語であれば、使用しても構わないとは言えます。それでも初出位置では()内に正式名称を示すなどの配慮をするとよいでしょう。
J:この「他の方」は、どのような範囲を想定しているのでしょう。またそれと関係しますが「巻き込む」ことは、「AI」の「役割」なのかどうかも明確にしてください。
K:Jと同様の問題です。「AI」の「役割」といえるのでしょうか。また、御社の「AI」が部下を配置される管理職なのか不明ですが、部下ないしは後進の指導は「役割」ではないのでしょうか。個人としての業務遂行やそのためのスキルについては詳しく述べておいでですが、それが③AI(主任)役割として、あるいは④伸長していくための方法として妥当なのか、私には疑問です。あるいは、●から③として行動するおつもりなのでしょうか。そうであれなら、どの時点で「AI」に昇進するのか、⑤時間軸を明確にして具体的に記述してください。K:このような議論をするのであれば、Aで「【重要概念C】=各人が能力を最大限に発揮します」に言及しておく必要があります。

②論旨構成が適切になされていない例

●弊社WIEでは、優れた小論文の条件を、次の4項目にまとめています。
(ⅰ)設問の要求に的確に応えている。
(ⅱ)整理された形で議論が展開されており、論旨が一貫している。
(ⅲ)答案の内容が、踏み込んだものになっており、説得力がある。
(ⅳ)修辞が優れている。
 上の項目ほど優先順位が高く重要で、例えば、項目(ⅰ)で大きく失敗していると、項目(ⅱ)・(ⅲ)・(ⅳ)がいかに優れていても、採点対象外(=0点)の答案となります。
 そこで、優先順位の高い項目「(1):設問の要求に応えているか」と「(2):論旨の一貫性」の観点から、まずは、答案を評価して参ります。 ●提出していただいた答案が、設問の要求に応えているか検討するためには、設問を分析して、正しくその内容を理解しなければなりません。設問の骨格は、次の三要素となり、その三要素の説明と、その相互関係を示すことが重要となります。

★三要素の説明
(1):<「大状況」について>
  御社を取り巻く環境変化の中で、激しいものを取り上げてください。
(2):<「業務で重要なこと」について>
 現場の実態に即したものとして、解答者の業務で最も重要なものを提示してください。 (3):<「昇格後の行動」について>
 昇格後に、周囲と協調してどのような行動を取る予定か説明してください。また、その際には、具体的な記述により、【昇級後の職階】に求められる複数の役割について、なるべく多くの役割をこなすことをアピールしてください。
★三要素の関係の説明(=論旨に一貫性を与えるために必要)
(4):<「大状況」と「業務で重要なこと」の関係>
 解答者が取り上げた「業務で重要なこと」が、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と、どのように関係しているか示してください。この項目について条件を満たした論述を成功させるには、「業務で重要なこと」と関係の深い「大状況」を、あらかじめ厳選して提示しておくことと、「業務で重要なこと」と「大状況」の関係を示す説明能力が求められることになります。
(5):<「業務で重要なこと」と「昇格後の行動」>

●上記の5項目について、答案の内容を評価すると、次のようになります。
(1)→○
 「自動運転や駆動方式の変更」を、「大状況(=環境変化)」として説明しています。この環境変化は、御社に限定されず、自動車業界全体に大きな影響を与えるものです。ただし、仮に後の議論にうまくつなげる方法が浮かばないのであれば、別の「大状況(=環境変化)」に変更した方が良い可能性があります。
(2)→△
 解答者は、「業務で重要なこと」として、「生産マスターの設定業務をタイムリーかつ正確に行うこと」及び、「商品開発プロジェクトの推進」の二つを挙げています。ただし、制限字数を考慮すると、「業務で重要なこと」を一つに絞った方が良いでしょう。不可能とまでは断言できないものの、相当に論文作成能力が高くないと、「業務で重要なこと」を二つ挙げて、設問の要求を満たした答案を、制限字数内でまとめるのは、困難です。  仮に私が答案を作成するなら、「商品開発プロジェクトの推進」を中心に議論をまとめ、その一部として、「業務の自動化推進」に言及するようにします。
(3)→×
 設問は、昇格後(=未来)の行動計画を説明することを求めており、過去の行動を説明することは求めていません。提出していただいた答案は、過去の行動の説明に相当の字数を割いており、大きく減点されます。
 なお、【昇級後の職階】に求められる複数の役割についてですが、これについては、ここでは細かく検討しません。後ほど、検討します。
(4)→×
 解答者が取り上げた「業務で重要なこと」が、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と、どのように関係しているか、読み手には全く理解できません。解答者が取り上げた「環境変化」は、解答者が注目した「業務で重要なこと」と結びつけにくいので、できれば別の環境変化を挙げたいところです。ただし、両者を結びつけることは不可能ではありません。
【答案骨子例】
 自動運転や駆動方式の変更といった、当社を取り巻く激しい環境変化により、膨大な開発費が必要となっており、当社の経営を圧迫している。この状況下で当社が生き残るには、既存事業を従来以上に徹底的に効率化して収益を得ることが必要である。既存事業の効率化の対象には、私が担当する「商品開発プロジェクトの推進」の業務も含まれる。この業務で重要なことは、開発期間短縮と、車両製造でより多くの利益を確保できる仕組み作りである。
★注):開発期間短縮→周囲との協調が必要/車両製造でより多くの利益を確保できる仕組み作り→RPAによる業務の省力化
(5)→△
 昇格後の行動計画が今一歩抽象的で具体性に乏しいため、昇格後の行動が解答者が取り上げた「業務で重要なこと」に、強く貢献するとまでは、言えません。昇格後の行動計画をより具体的に説明すれば、この問題は解決できるはずです。
※ここまでの答案内容の分析から、論旨の一貫性が確保されていないことが明確となりました。
●続いて、項目(ⅲ)の答案の内容の説得力について検討します。ここでは【昇級後の職階】に求められる複数の役割を中心に考えてみましょう。添付していただいた資料を参考にすると、次のようになるでしょうか。

★意識・姿勢規準
・グローバルでの経営環境変化と競争を常に意識し、業務目標・課題の達成に強いこだわりを持つ。
→解答者は、グローバルな経営環境変化である「自動運転・駆動方法の変更」を掘り当てています。この環境変化を、解答者が取り上げる「業務で重要なこと」と結びつけて議論できれば、等級規準が求める意識・姿勢の条件を満たすことになります。

・他部門の業務に関心を持ち、自分との関連・影響を常に念頭に置きながら、三現主義・PDCAに基づき、スピード感を持ち、粘り強く主体的に行動する。
→提出していただいた答案でも、他部署との協調に言及があるものの、等級規準が求める意識・姿勢の条件を満たしていることを、強くアピールするためには、協調をする上での注意点にも言及すると良いでしょう。具体的には、これまでの他部署での協業でうまくいっていなかった点を改善することや、他部署との協業がうまくいっていることを、よりうまく活かすにはどうすればいいかを検討するといったことです。
 他部署の業務に関心を持っていないと、具体的なアイデアは出てこないので、部外者である私には、これ以上詳しく説明することはできません。

・キャリアパスを意識したうえで、自己の能力を向上させるために必要な知識・スキルについて自ら学ぶ →これには、専門職としての知識・スキル(例:RPAプログラムの作成スキル)もあれば、管理職としての知識・スキル(例:コーチングのような人材育成のスキルや、部下に気持ちよく働いてもらえるような職場の環境整備により、担当部署が成果を上げるようにするノウハウなど)もあります。
 提出していただいた答案は、専門職として新たに学ぶ知識・スキルに言及がなく、また管理職としての知識・スキルにも言及がありませんでした。専門職と管理職の双方の視点で、知識・スキルに言及する必要まではないものの、専門職と管理職のどちらかの視点では、新たに習得する予定の知識・スキルに言及したいところです。

★能力規準 ・必要知識:担当業務についての専門知識に加え、関連業務の一般的知識がある。 →協業する他部署の業務を簡単に紹介することで、この条件を満たすことができます。これに対して、提出していただいた答案は、「前工程、後工程の部署」との記載があるだけなので、関連業務の一般的知識があるのかどうか、読み手は疑うことになります。
・専門スキル:判断を自律的に臨機応変に行い、実用価値の高い新しい企画を十分に打ち出すことができる。
→提出していただいた答案は「新しい業務の自動化案を企画」との言及があるものの、これが実用価値の高いものなのかどうか、読み手は判断できません。後で手直しがあっても構わないので、現時点で考えている「素案」や」「試案」を、答案の中で説明すると良いでしょう。具体的には、どのような意味でその企画が新しいのか、自動化の対象となる業務領域の変化や、自動化の対象となる定型業務の変化の観点から説明すると良いでしょう。
・様々な価値観や強みを持った人々と協調し、多様な利害関係者の意見に耳を傾けることができる
→利害関係者には、部下や上司、関連部署の者、取引先の企業の者といったものが含まれます。周囲の人々に関心を持っていないと、この項目で優れた内容の答案を作成することはできません。技術者は一般に、対人関係力がそれほど高くないと思うのですが、人並みの対人関係力があることは、示したいところです。例えば、部下の得意不得意や専門性に言及すること、あるいは、関連部署からの要望に言及すると良いでしょう。関連部署からの要望については、後工程の部署が業務をしやすいように、解答者の所属部署がどのように業務を遂行すべきか、といった視点で論じることもできるでしょう。

・組織目標や課題解決に向け、メンバーと丁寧なコミュニケーションを通じて意識を高め動機づけすることを意識できる。
→部下の戦力化に関する言及です。提出していただいた答案では、「習得したRPAプログラムの作成スキルを後輩へ継承」とあり、部下の戦力化に言及があるものの、「動機付け」の具体的方法に言及がありませんでした。これは一例ですが、業務の自動化にどのような意義があるのか、部下(メンバー)にわかるように説明することが、「動機付け」にあたります。
・受け取った経営及び関連する情報を咀嚼して、自己の業務に関連できる。
→御社の中期計画や、最近の社長訓示と、解答者の業務の関連を説明できるのが好ましいと申せます。御社を取り巻く激しい「環境変化」を説明する際に、御社の中期計画を参考にし、また、御社の中期目標が言及する重点項目と、解答者の業務の関係を考察するようにすると良いでしょう。  答案では組織目標として、「業務の自動化推進」がありますが、これは、御社の中期計画とどのような関係になっているでしょうか?御社の中期計画を今一度熟読すれば、「業務の自動化推進」に、御社の中期計画が言及していることを発見するかも知れません。また、「業務の自動化推進」にどのような意義があるのか、御社の中期計画の中で説明しているかも知れません。 ※ここまで、答案の内容について言及しました。

●最後に、項目(ⅳ)の修辞(=文章表現の技術)についてです。ここまでに検討した三項目、つまり「(ⅰ)設問の要求に応えること」「(ⅱ)論旨の一貫性」「(ⅲ)答案の内容の説得力」と比較すれば「(ⅳ)修辞」は、優先順位が低いものの、読みやすい文章とするには「(ⅳ)修辞」も優れている方が好ましいと申せます。
 「(ⅳ)修辞」については、答案に沿って具体的に説明した方がわかりやすいので、以下で説明します。なお、「(ⅳ)修辞」について細かく問題を指摘すると、答案の水準を向上させる上で、優先順位の高い項目がわかりにくくなるので、今回は、ザックリとした「(ⅳ)修辞」の指摘で済ませます。修辞の問題点に気づいていても、あえて指摘しない箇所が多くあるのですが、この点はご了承ください。

●以下では、答案に沿ってコメントします。

(解答本文は省略)

(個別のコメント)
A 設問が要求する、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と、「(解答者の)業務の重要なこと」に言及している点は、評価したいところです。ただし、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と「(解答者の)業務の重要なこと」が、どのように関係しているか一切説明がないため、論旨に一貫性がないとして大きく減点されます。 修正の仕方の例は、先に【答案骨子例】として説明したので、参照してください。

B 「(解答者の)業務の重要なこと」の二つ目を提示しています。
 ただし、制限字数を考慮すると、「業務で重要なこと」を一つに絞った方が良いでしょう。不可能とまでは断言できないものの、相当に論文作成能力が高くないと、「業務で重要なこと」を二つ挙げて、設問の要求を満たした答案を、制限字数内でまとめるのは、困難です。 仮に私が答案を作成するなら、「商品開発プロジェクトの推進」を中心に議論をまとめ、その一部として、「業務の自動化推進」に言及するようにします。

C 過去の行動を説明することを、設問は要求していません。こうした、設問の要求から外れた記述が増えるほど、答案の評価が低くなります。既にRPAを導入したのであれば、RPAを導入するだけでは、解決できていない業務上の課題を、最初から取り上げて論じるべきでしょう。

D 昇格後の行動計画を述べています。「【昇級後の職階】に求められる役割」について、複数の項目に言及しようとした努力は、評価したいところです。ただし、ほとんどの記述が、形式的な言及にとどまっており、議論の内容に説得力がありません。できる範囲で構わないので、より具体性を高めた議論とすることで、説得力を高める工夫をしてみてください。なお、具体性の高め方については、先に説明した通りです。

a 実用文に「です・ます」の文体(敬体)を用いてはいけません。なぜなら字数を多く必要とし、述べるべき内容が薄くなるからです。「だ・である」の文体(常体)に書き改めて下さい。なお文体の不統一はもっといけません。