昇進・昇格試験の解答例15

6) 働き方改革・コロナ対応

課題

 育児や介護をおこなう職員、障害がある職員、60歳以上の職員など、多様な職員がいる中でこれらの職員の能力・経験等を最大限活かすために所属長が果たすべき役割は何か。

文例案―ソフトウェア企業人事部

 すべての国民が、その能力を発揮する機会を与えられることは、憲法の保障する基本的人権である。したがって、多様な職員がその能力を発揮できるようにすることは、私たち管理職の義務である。同時に少子化による労働力不足が深刻化する中で、多くの人が働ける環境を用意することは、当市が市民が望む業務を遂行する上でも不可欠といえる。

1.全職員の能力と抱える事情の把握
 そのために所属長の果たすべき役割は、まず部署の全職員それぞれが抱える事情を把握することである。これは当然のことではあるが、必ずしも徹底されていない。特に、私の所属する**は、職員総数**と当市最大級の課である。また生活保護の受給という複雑で繊細さの要求される業務を担当している。そのため、個々の事案は、担当者以外正確な状況が把握できない、いわゆる業務の属人化が生じやすい。これが多様な働き方を阻害している。
 例えば、担当事案が気になって休業や時短を申請しにくい、あるいは逆に、対象との応接が得意であるのに、勤務形態の関係で引き受けることを躊躇する、といったことが起きている。
 育児や介護など家族の問題を抱える者や、障碍者や高齢者など、似たような勤務形態にある者だけではなく、通常業務の職員に関しても、個人の状況を知っておく必要がある。彼らも、分に適した働き方を求めているからである。
 このとき、例えば時短の時数や障碍の程度といった外形的な情報だけではなく、職員の心情も理解しなければならい。確かにこの点に踏み込むのは、プライバシーの侵害になりかねない。しかし、何らかの事情を抱える職員はそのことに関して、引け目を感じている場合が多い。その心情を汲んで、共感する、あるいは少なくとも理解することが必要である。
 例えば、育児を伴う職員に対して、私も4歳児を育児していることから共感し、労い、限られた育児時間で頑張ってもらっていることに感謝の意を伝えた。また、介護を行う職員に対しては、介護休暇の制度を知らせる等、より困難な状況になった場合の制度を紹介し、組織として必要とされていることが伝わるようにした。また、必要となる介護に応じて優先して、勤務で無理せず他の職員に早めに相談するよう助言している。いずれも、時短などの制度の適応が彼らの心理的に負担にならないための配慮である。
 障害のある職員の車椅子使用に対しても、心理的な負担が生じないよう配慮した。移動のたび周囲の職員がよけるのではなく、職場内で彼の動線を十分に確保し、常に整理整頓に心掛けた。このことで、彼は気兼ねなく移動ができている。
 こうした配慮が常に上手くいくとは限らない。退職後の再雇用で配属された60歳台の職員に対して、極力負担にならないよう、比較的単純な書類作成と整理を依頼したところ、「俺にもプライドがあるから」と言って引き受けてくれないこともあった。このときには、新人教育の一環であることを説明するなど意見調整し、自尊心を傷つけないよう心掛け、克服できた。

2.情報の共有と更新
 職員の事情のうち、個々人のプライバシーに深く関わるものは、課長と課長補佐以外には知らせない、といった配慮が必要である。一方で、同じ職場の同僚として最低限の情報が共有されていないと、適切な協力や配慮ができない。したがって、共有すべき情報の質と量は、課員それぞれの立場や職務によって異なる。また、個人の事情は絶えず変化する。常に最新の情報に基づく対応が必要である。そのため変化があれば、本人に申告してもらうことが基本であるが、周囲が気づいてあげることも重要である。
 具体的施策として、第1に現在4つある班の内部で、情報の共有と信頼の醸成を図る。現在でも定期的に班会議が行われているが、事案の報告だけではなく、個々人の問題も話せるようにする。例えば、職員の家族や本人の変化に対するチェックリストを作成し、それにそって各自が報告することを考えている。さらに、各班のリーダである主査たちと課長・課長補佐による定例ミーティングでも、業務だけではなく職員個人に関する重要な情報を報告してもらう。そして課全体で対応を協議する。
 こうしたピラミッド型の組織による対応と並行して、出退勤時の挨拶、業務の節目に感謝やねぎらいの言葉を掛ける、といった取り組みを進める。また定期的に各班と所属長が一緒にランチをとる機会を設けるなど、上司と部下との信頼醸成に努める。
 特に**である私は、課内の地区担当員*人に各年間3回の面談をしているが、これに加えて心身の不調が窺える職員や業務成績が振るわない職員と随時面談している。業務は課長が統括するが、個人の悩みは、課長補佐である私の任務だと自負しているからである。

3.期待される効果と今後の展望
 これまでも1で触れたように個々人の状況に対応することで、その能力を発揮してもらえるようになった。しかし、これを私一人の活動ではなく、部署全体での対応にしたい。とりわけ、私が異動によっていなくなっても、情報の共有と更新が行われ、適切な対応ができなければならない。そのため、次代を担う主査にも役割を分担してもらうようにしていく。
 さらに、昨今のコロナ禍でリモートワークの導入が叫ばれているが、官公庁では遅れているとの批判も多い。しかし、在宅勤務によって通勤の負担がなくなれば、さらに多様な職員が活躍できる。当課では面接・面談の業務が多く、またかつて職員による不祥事があったことで、在宅勤務は難しい面もある。しかし報告書作成などでは、積極的に導入したい。
 生活保護受給者が増えていることから、職員の負担が増え、しかも管理職に対する部下の数が多くなり、状況の把握が遅れがちである。このため各班から精神変調による休職・退職が毎年出てしまっている。上記の施策は、この克服も有効である。(2396字)

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