限られた時間と字数で設問の要求に適切に答えるためには、正しい手順が必要です。これは日常業務の報告書や提案書の作成にも有効です。
①課題=出題者の要求を正しく把握する。
課題が書くことを直接要求しているのは、次の二点です。
(1)解答者(あなた)の所属する法人の説明
(2)解答者(あなた)の担当業務の説明
さらに、これは明示されていないものの、優れた論文だとして評価される条件のひとつに、「答案に盛り込まれる重要概念の相互関係が明確になっていること」があるので、次のことも説明すべきです。
(3)解答者(あなた)の所属する法人と、解答者(あなた)の担当業務の関係の説明
提出された答案は、(1)に触れているものの、(2)について全く触れていません。かわりに、「所属部署の業務とその背景(以下(4))」を説明してしまっています。確かに、答案の中で、(4)に触れるのが禁止されているわけではありません。ただし、(4)に触れる本来の目的は(3)に説得力をもたらすのに役立つからです。
提出された答案は、(2)に触れていないので、(3)を示すことが不可能です。さらに、(3)を示すことが不可能であるため、(4)が答案の説得力を高めるのに何ら役立っていません。
②設問の要求から論点を整理
設問の要求に応えた答案とするためには、次のことに言及することが重要となります。
(1):課題を一つ選出すること
(2):問題点を明らかにすること
(3):具体的解決策を論述すること
(4):解決策の効果を論述すること
また、優れた論文とするためには、概念の相互関係を明示することが求められます。
(5):(1)で選出した課題と、(2)で提示した問題点の関係を示すこと
(6):(2)で提示した問題点が、(3)に示す具体策により、解決する見込みであることを示すこと
(7):(4)で論じる効果については、(2)に提示した問題点がどの程度解決するのかや、(1)に提示した課題にどの程度貢献するのかという視点で論じること
例えば、「課題:これからの業務への抱負」として書くべき文章は、次の4つの条件を満たす必要があります。
(1)志望先の組織の目標を理解していることを示すこと。
(2)特任助教が担当する業務内容を理解していること。
(3)具体的な業務の実践を通じて、志望先の組織の目標に貢献する見込みであることを示すこと。
(4)具体的な業務の実践について、解答者の持つ専門性や、解答者の教育業務の経験がどのように生かせる見込みなのか示すこと。
もうひとつ、「コストダウン」が課題の場合の論点を示すと、以下のようになるでしょう。
(1):「コストダウン」との関係を示しながら、課題を抽出する。
(2):(1)に示した課題について、解決するための具体的な施策を示す。
(3):(2)に示した施策を実践した結果、実際にコストダウンが実現したことを示す。
あるいは、(2)に示した施策を実践することで、今後コストダウンが実現するメドがあることを示す。
③制限字数
「○○文字以内」・・・その9割から10割で答案を作成して下さい。例えば、制限字数が「1000文字以内」なら、900文字以上1000文字以下で答案を作成して下さい。
「○○文字程度」・・・その前後1割以内(=9割から11割で)で、答案を作成して下さい。例えば、制限字数が「1000文字程度」なら、900文字以上1100
文字以下で答案を作成して下さい。
④答案の構想
(1)
今後答案を作成する際には、是非とも答案を解答用紙に書く前に、答案に盛り込みたい内容をメモ書き・箇条書きし、それに続いてその内容をどのような順番で説明すれば、読み手が理解しやすいか作戦を立ててみてください。こうしたことを行うのは、少々時間がかかり無駄に思えるかも知れませんが、準備ができていれば、清書は比較的スムーズにでき、トータルの答案作成時間はさほど変わりません。
確かに日頃の友人とのおしゃべりであれば、「思いつくまま」でほぼ問題ないのですが、論文は、短時間で読み手に言いたいことを理解してもらわなければ役目を果たせないので、それに適した文章の「構造化」が欠かせないのです。
なお、堅めのまとまった文章が、どのように「構造化」されているかに注目しながら、読むように習慣をつけると、整理した形で議論を展開するとはどのようなことかより理解が進むはずです。読書好きでいわゆる活字中毒の方でも、案外と文章の「構造化」には無頓着なことが多いですから、「構造化」のスキルを身につけることができれば、文章作成・論文作成で他者より大きく有利になるでしょう。
(2)
さて、以上の前提からWIEでは、制限字数の9割以上書くことが必要だと考えています。何割以上残すと減点になるか、ということについては、参考書や添削講座によってまちまちですが、形式的な問題と言うより、出題側が制限字数を設ける際には「解答に必要な議論をするにはこのぐらい字数が必要」と考えているはずですので、1割以上も字数が「余る」ということは、解答に必要な論点(=概念)を見落としている、あるいは概念の関係付けが不十分である可能性が高いのです。
⑤設問の要求に対応した構想メモ
実際に答案を書き始める前に、「答案の設計図=構想メモ」を箇条書きで作成し、答案に盛り込む概念の関係を整理すると、この問題が解決に向かうはずです。
ここで論文のテーマを確認してみましょう。もちろん、重要概念を把握することが必要です。ただし、それにも増して重要概念の相互関係を把握することが肝要です。
これはあくまで例ですが、提出された答案や添付書類を参考に、構想メモを作成してみました。議論を組み立てる参考になれば、幸いです。
【構想メモ例】
≪論文のテーマ≫
1.会社における、あなたの所属部署の役割、本年度の方針について述べよ。また、あなたの業務を簡潔に説明し、問題点を記述せよ。
2.提起した問題に対し、どのように取り組んでいくか、○○○○○(会社目標)に照らして、どのように取り組んでいくか。
3.それらを取り組む上で、今後どのような障害が起こることが考えられ、それらにどう対処していくか。そのために後輩にはどのようなことを担ってもらうか。
≪構成案≫
(1)解答者の所属部署の役割:顧客が抱く不満や疑問を解決し、顧客満足度を高める。
(2)本年度の方針:海外のグループ会社で国内と同様のメンテナンスを行えるようにするための人材育成
(3)海外代理店のエンジニアを日本に招き、解答者が中心となってトレーニング
(4)トレーニングの効果は出ているものの、トレーニングの効率や質に改善の余地
(5)解答者自身の語学力を向上させて、トレーニングの質を高める。海外代理店のエンジニアのトレーニングを担当するCS部員を増やし、トレーニングの効率を高める。
(6)2020年に日本と海外の売上比率を半々にする程度まで海外の売上を伸ばすには、海外での当社の認知度を高める必要がある。海外でも、日本と同様の優れたカスタマーサポートを提供することが、当社の海外での認知度を高めることに貢献する。
(7)語学力が向上するだけでは、優れたトレーナーになれない。部員一人一人がCS業務の優れた方法を熟知している必要がある。
(8および9)CS業務の優れた方法を解答者がOJTを通じて、CS部員(後輩)に示す。CS部員(後輩)は、優れたCS業務を理解し実践できるようになることで、優れたトレーナーや次のリーダーとなる素養を磨く。
⑥設問の要求から全体の視点を固めるまで
設問の要求を確認してみましょう。まず、問1については次のようになっています。
(問1)社会人生活の中で、あなたが上司、同僚から受けた手本又は教訓(このような点を見習うべき、改めるべき等)とそれから得たものについて述べなさい。
この設問に応えるには、次の二つに触れることが必要です。
(1)社会人生活の中で、解答者の上司、同僚から受けた手本あるいは、教訓を説明すること
→課題文の「欠点をみることさえ自分の手本となる」とある点に注意すべきでしょう。上司、同僚の「優れた業務の進め方」が「見習うべき手本や教訓」となります。一方で、上司、同僚の「良くない業務の進め方」は、「改めるべき教訓」となります。今回提出していただいた答案と同程度の制限字数であれば、「見習うべき手本や教訓」と「改めるべき教訓」の双方について述べるべきでしょう。
この設問で優れた答案を作成するには、日頃から職場の周囲の人々をよく観察しておくことが重要となります。この「観察」の重要性は、課題文の中でも説明されています。
(2)手本や教訓から得たものを説明すること
「見習うべき手本や教訓」として挙げた例については、その事例についてどのように見習うべきかと説明することとなります。一方で、「改めるべき教訓」として挙げた例については、それをどのように反面教師として、解答者の業務の進め方に生かしていくかを述べるべきでしょう。
次に、問2について検討します。
(問2)「問1」を踏まえ、あなたが目指すマネージャ像を述べなさい。また、それを実現するためにあなたがどのように取組むか、具体的に述べなさい。
問2の設問文に、『「問1」を踏まえ』とあるので、問1の解答との整合性も、評価対象となります。問1で「見習うべき手本や教訓」と、「改めるべき教訓」について複数挙げることができていないと、問2で、設問の要求の範囲内で書くことがなくなって困ってしまうかも知れません。答案を作成する上では、次の項目に触れることが必要です。
(1)問1で触れた、「上司、同僚から受けた手本又は教訓から得たもの」と、解答者が目指すマネージャ像の関係を説明すること
(2)解答者が目指すマネージャ像を実現するために、具体的にどのように業務に取り組むのか説明すること
⑦構想メモの失敗例
ここで、答案の問題点を検討するために、設問文(課題)を分析してみましょう。使用されている重要概念(=指定された論点)に注目しますと、答案では、次の①~④に言及しなければならないことがわかります。
①10年後の社内外の環境変化への対応や②業績向上のためには、組織の③意識改革が必要です。④あなたの所属する部署において、どのような③意識改革が必要か、⑤あなたの担う役割と行動をふくめ、またそれに伴う身につける⑤スキルを⑥時間軸に沿って述べなさい。
ここで、お送りいただいた答案を、段落ごとに短くまとめ(=要約し)てみましょう。その際、各段落の重要概念(論点)が設問の要求する①~④とどう対応しているか、()で示します。
第一段落:①と対応するともとれるが10年後とは明記していない。
第二段落:②業績向上に向け解決すべき課題
第三段落:④と対応するともとれるが、あなたの所属する部署とは明記していない。
第四~七段落:課題を解決する為の施策1(⑤)
第八~一二段落:課題を解決する為の施策1(⑤)
第一三・一四段落:①10年後の状況を述べているが、途中過程が十分に説明されておらず、⑥時間軸に沿っているか不明確。
これから分かりますように、設問文の重要概念=設問が指定した論点のうち、③「意識改革」に対して、この答案は全く触れていません。さらに①「10年後の社内外の環境変化」および「あなたの所属する部署」についても明確な言及はありません。このため、設問の要求に対応していないのです。
第二の問題点として、概念の関係付け=論旨の構成に不適切な点があります。例えば、第三段落で「個人商店化」を解決すべき問題としてあげていますが、これが②「業績向上」をどのように阻害している、あるいは他の阻害要因と比べなぜもっとも重視すべきなのか、全く説明(論証)がありません。これでは、単なる思いつきの域を出ません。これは、この答案を評価するための根本原則に関わります。
⑧議論の踏み込み不足
踏み込みが甘く、面白みに欠ける議論となっています。次のことに触れたいところです。
(1)過去の取り組みとの比較
答案には、「各部の担当者とのチームミーティング」とあり、これが取り組みの具体策にあたります。しかし、果たして、これまでは、「各部の担当者とのチームミーティング」は存在しなかったのでしょうか?また、なかったとした場合、部署間の連携について、解答者の所属部署はこれまで何を行ってきたのでしょうか?
あるいは、(新しく)上市する前化合物ごとに、連携体制を一から構築していくのかも知れませんが、前任者あるいは、過去の解答者が部署間の連携について何もやっていなかったとは考えにくいと申せます。以前の不十分な連携体制の具体策と比較しながら、議論すると答案の説得力が高まります。
(2)連携を高めるための具体策による、連携向上の効果の説明
過去の取り組みと比較しながら論じることで、連携がどの程度向上することを見込めるか読み手が理解しやすくなります。これを説明してください。
連携強化のために関係者を集めて、ミーティングをしようとする発想自体は、誰でも浮かぶでしょう。むしろ問題は、どうやって実際に参加してもらうかや、ミーティングの効果を高めるために何をやるかです。直接の担当業務の遂行を優先し、参加しなくても、後で議事録を読めば十分と思われてしまっては、参加者は減ってしまいます。また、なんとか参加してもらったとしても、「そこにいるだけ=休憩時間」になってしまっては、チームミーティングの効果は低減してしまいます。
添付していただいた資料で、「G2職の役割」について説明がありますが、その中では、「対人影響力」という項目があります。この項目を参考に、チームミーティングの効果を高める方法についても、併せて議論してください。なお、「対人影響力」以外の項目についても、チームミーティングの効果を高めるのに役立つ項目が「G2職の役割」の中では説明されているかも知れません。