合格者の添削例(慶應SFC・環境情報)

G・Iさん 慶應義塾大学環境情報学部

・添削本文

合格者の添削例(慶應SFC・環境情報)1 合格者の添削例(慶應SFC・環境情報)2


・添削コメント

全体のコメント

提出された環境情報の答案について他の年度も含めて全体に目を通したのですが、G・I様は非常に高い「読解力」をお持ちで、設問と資料の内容をかなり正確に理解されています。その上で、多くの受験生は気づかない鋭い踏み込みをして論点を設定しています。SFCが受験生に求めている「問題発見能力」に関しても、高いものがあると言えるでしょう。おそらくG・I様は小論文について、かなり自信をお持ちなのではないかと察せられます。
しかし、設定した論点について立てた自説の論証に不十分な点があります。小論文試験では、現代の我々が抱える解決困難な問題について論じなければならないので、設定した論点の踏み込みが鋭ければ鋭いほど論証が困難なものとなるのは致し方ありません。しかし、入試問題の小論文は点数をつけなければならない関係上、論点の踏み込みの鋭さだけでは、合格できません。あくまで、解答者の設定した問題について、説得力ある主張にするべく論証することが求められているのです。入学試験においては、高い問題意識にもとづいて書かれた小論文が、論証の不十分さが原因で、論証の容易な凡庸な主張の小論文よりも低く評価されてしまうこともありうるのです。
おそらく、同じことが先に返却されたWIEの総合政策対策講座のコメントでも言われていると思いますが、重要な点ですので繰り返しました。
実際には論証が多少粗いものであっても、「問題発見能力の高さ」が評価されれば、合格者に分類される可能性が高いでしょう。しかし、G・I様の非常に高い能力を持ってすれば、本来ならば合格して当然ですので、SFCが用意している受験生が陥りやすい落とし穴にはまって思わぬ苦渋を飲まないように、しっかりと対策していきましょう。
受かるべくして受かる能力をつけて頂くために、合格答案であっても厳しくコメントしていきますのでご了承下さい。指摘したコメントを踏まえて答案を作成できるようになれば、小論文に関しては安定して合格できる能力がつくでしょう。

さて、返却する答案が01年度のものからになりますのには理由があります。それは、テキストの解説が前年度の課題に取り組んだことを前提に書かれているからです。なるべくはやく他の年度の答案も添削して返却するようにして参りますので、その点はご了承下さい。

初回添削なので、答案を見ていく前に小論文作成の方法を簡単に説明します。G・I様は既にご存知のことがほとんどではないかと思われますが、復習の意味も込めて以下をお読み下さい。今はまだ、合格答案を作成するのに必要なことが何かを意識していないかも知れませんが、これを意識することで、安定して合格答案を作成できるようになるはずです。

小論文で何を書くか、その方向性を見定めるには次のことがまずは必要になります。

① 資料を読み取って、重要概念の意味を理解すること
② 設問も丁寧に読み、何を書くことを要求しているのか理解すること

>

まず、①についてです。小論文でよくやってしまうミスは、課題文(資料)と関係ありそうで実は関係ないことを書いてしまうことです。課題文(資料)を読んで、何が論点になっているのか理解するようにしましょう。この論点(あるいは重要概念)は、設問で特に指示がなくても答案で使用すべきなのですが、今回は、設問でこの重要概念が提示されているので(携帯電話・エクスペリエンス・コミュニティ)、この重要概念がどのような意味で使われているか資料を通して理解するようにしましょう。
例えば、「エクスペリエンス」についてです。これは従来、サービスの一種とされていましたが、資料3ではサービスと異なるものとして説明されています。サービスは「役務の購入」であるのに対して、エクスペリエンスについては「思い出に残る時間を過ごすことに対価を支払い、提供側は『エクスペリエンスという出来事』に招き入れる」と説明されていますね。
この年の問題を見る前から、「エクスペリエンス」が何であるか知っている必要は全くありません(はずかしながら添削者はこの問題を見て初めてそのような考え方があることを知りました)。しかし、資料を読解して重要概念を理解できることをSFCは要求しています。G・I様は、見事にこの条件を満たした答案を作成しています。

次に②についてです。資料を読むだけでは小論文は作成できません。設問も丁寧に読むことが要求されています。設問で下線がひいてある3つのキーワード(携帯電話・エクスペリエンス・コミュニティ)を盛り込むだけではなく、「21世紀の社会にどのように役立つか」について言及する必要があります。この点も、小論文ではしっかり述べられていましたね。

なお、大量の資料を読むことが要求されるSFCでは、資料を読む前に、設問を読んでおけば、何に気をつけて資料を読むべきかわかり、時間を節約できることを付け加えておきます。

これらのことを踏まえて小論文を作成することを考えてみましょう。今の段階では、3つのキーワードに相互の関連がありません。この関連を見つけ出せるかが、解答方針を決める鍵になります。例えば、次のような感じで考えていけばいいでしょう。
I. 「携帯電話」を使った新しいサービスを提案すればいいようだ。
II. しかし、単なるサービスではなく「エクスペリエンス」を提供するものでなければいけない。
III. 「コミュニティ」が何で関係するのだろう?
IV. 「携帯電話」を使った「エクスペリエンス」が「コミュニティ」を築いたり、維持したりするのに役立つのだろう。
V. 「21世紀の社会」と何で関係するのだろう?
VI. 「コミュニティ」のあり方が「21世紀の社会」で重要だからではないだろうか。

どうやら「こんなコミュニティがあればいいな」と言うのが一つ浮かべば、解答できそうですね。必ずしもこのように概念を関係づける必要はないのですが、設問で使用するように要求された概念を、解答者の設定した論旨(この場合はビジネス企画)に沿って、有機的につなげていくことが求められているのです。

続いて、小論文の形式を考えてみましょう。小論文もそうですが、文章を書くときは必ず、「読み手が誰か」を意識する必要があります。
今回は「ビジネス企画」ですから、企業なり、行政なりの組織にその企画を採用したいと思わせることが要求されます。相手が企業であれば、「その企画で収益が上がること」、行政であれば、「今までにないサービスもしくは、今までより優れたサービスで、多くの人に役立つこと」を説明しなければなりません。企画の提案先を想定し、それにあわせてアピールの仕方を考える必要があるわけです。
次に「広告デザイン」についてですが、これはエンドユーザー、つまり最終的に商品やサービスを購入・利用してくれる人を獲得するためのものです。解答欄(1)で述べた内容がエンドユーザーにわかりやすく伝わるように、図を書くだけではなく、「企画の名称」を書くようにすべきでしょう。その際に、誰(高齢者・若者・男性・女性など)をターゲットにした広告なのか考慮すべきです。


個別のコメント

それでは設問ごとに見ていきましょう。答案に書き入れました赤字が改善点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますのでご参照下さい。記号のない箇所については,単純な誤記や分量調節のためのものです。

解答欄(1)
ギリギリ合格圏の答案なのですが、先のコメントで説明した「ビジネス企画」の条件を十分には満たしていません。医療関係者と複数の患者から構成されるコミュニティが21世紀の社会で役立つことは、答案を読めば十分に理解できるのですが、どのような組織に企画を提案しているのか不明ですし、また企画を採用した組織にとってどのようなメリットがあるのかがわかりません。多くの人にとってメリットがあることを示せばよい普通の小論文とは異なっていることに注意して下さい。型にはめて論じる発想ではなく、設問の形式に対応させた答案を作成することが必要なのです。出題形式の変化が激しいSFCの小論文では、この点を見逃していると痛い目にあいます。

a 携帯電話の機能が通話に限らないことを踏まえて答案を作成しています。資料を踏まえた記述です。
b 設問の要求に応えることができる企画を提案しています。
c 21世紀の社会がどのようになるのか、明確な考えが示されています。これをあらかじめ述べておけば、提案するビジネス企画が21世紀の社会に役立つことが理解しやすくなりますね。
d 提出された答案の概念の関係をそのままにわかりやすい表現になるように言い換えましたが、実のところ問題が残っています。「インフォームド・コンセント」の概念と、「脱中心化」の概念が直接結びつかない概念だからです。「インフォームド・コンセント」の概念は、患者の納得する治療を実現するためにあるのですが、これは自己情報のコントロール権に起源を持ちます。医者が医療の中心にいたとしても、患者本人の情報をコントロールできるのであれば、問題ないのです。「脱中心化」は、「インフォームド・コンセント」に必要な概念ではないということになりますね。この問題をどう解決すればいいかをeの部分のコメントも踏まえて考えて下さい。
e コミュニティは集団や仲間といった3人以上の人々で構成されるものです。患者と医療従事者の一対一双方向性コミュニケーションが成立するだけでは不十分なのです。集団や仲間を意識して答案を作成するのであれば、一体複数や、複数対複数の双方向性コミュニケーションが必要になるわけです。患者と医療従事者の一対一双方向性コミュニケーションが十分に行われれば、「インフォームド・コンセント」は成り立ちますが、コミュニティはこれだけでは成立しません。「議論の場」といったものを携帯医療が提供する必要があるわけですね。この違いを明確に意識して論じていないのが、dの部分で指摘した問題の原因にもなっています。概念を整理して提示する必要があるわけです。
 脱中心化の概念を医療に適応するのであれば、「患者が医療従事者を過度に頼りにせず、患者を中心としたコミュニティの中で勉強していくべきである」と述べることになるのではないでしょうか。
 なお、この部分で使われている「エクスペリエンス」の概念は、資料をよく理解して正しい意味で使用しています。
f 「医療情報に関するデータベース」は答案作成上どうしても必要となる概念ではないので、これに関する記述は短くまとめてしまって構いません。
 かわりに答案で述べなければならないことは、どのような組織に企画を提案するのかということと、企画を採用した組織にとってどのようなメリットがあるのかを示すことです。
 発案された「携帯医療」は、民間の医療機関と、行政のどちらに提案することも可能なビジネス企画ですが、どのような組織に企画を提案するかで、企画のメリットの説明は微妙に異なってくるので注意して下さい。
 上記コメントとテキストの解説を参考に答案を修正して再提出して下さい。

解答欄(2)
 採点のポイントは、冒頭で述べた広告デザインの条件の他に、解答欄(1)と整合性があり、より具体的に表現されていることです。

a コミュニティがどのような人々から構成されるのかが不明確です。これを明確にすることが、対象となるユーザーの設定にもつながります。
b データベースとコミュニティの概念の関係が不明確です。データベースはコミュニティの構成員ではないので、円の外部に書くべきではないでしょうか。
c 双方向性のコミュニケーションであっても、一対一のコミュニケーションが成立するだけではコミュニティとは言えません。集団であることがわかるように修正する必要があります。
d 解答欄(1)でも述べましたが、インフォームドコンセントの実現だけを目指すのであれば、インターネット上のコミュニティは必要ないことになってしまいます。提示する概念同士が、お互いにどのような関係にあるのか明確になることを目指して下さい。
e 料金や、参加方法の問い合わせ先なども説明して下さい。


上記コメントとテキストの解説を参考に答案を修正して再提出して下さい。
再提出答案を楽しみにお待ちしています。

西早稲田教育研究所
慶應SFC小論文講座
担当 中島泰平

・講座開始のご案内 (2017/5/12)  ≫詳細