合格者の添削例(東京大学大学院)

M・Fさん 東京大学大学院新領域創成科学研究科

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全体のコメント

提出して頂いた答案を拝見しました。解答の方針がよくわからず、とまどってしまっているようですね。
解答の方針を考えるには、出題者側にこの試験を通して何を問おうとしているのか考察してみればいいのです。
入学試験は、ある一定の手続きで誰もが納得する合否判定が必要になります。これは、受験者だけではなく、大学の教官も同様です。専門性の高すぎる内容を出題すれば、試験問題作成教官の運営する研究室を志望する受験者が有利になり、そうでない研究室を志望する受験生が不利になります。志望されている学科は、「環境システム学大講座」としてまとめられているようですが、研究室ごとに研究テーマは大きく異なっていますね。小論文の出題テーマも、一般性があり、かつ答案の内容に許容範囲が広いものにならざるを得ません。
多くの小論文では、設問だけではなく課題文が与えられており、論点が絞られてくるのですが、例えば課題文を与えて「経済性」を論点にしないといけないように誘導すれば、先ほど述べたように経済性を研究している研究室を志望する受験者が有利になってしまいます。

確かに、文系の方々の場合は、論じるのが専門なので、広いテーマについてそれぞれ論じられることがスキルとして要求されるますから、どのような場合にも対応する能力をつける必要があるかも知れません。
しかし、M・F様の場合は、実験系の研究室を志望されているので、そのようなスキルを要求されているわけではないでしょう。では、自分の志望している関係ありそうなテーマを書けばいいのでしょうか。
結論から言うと、これでは不十分です。それには、環境学という学際分野が従来の理系の学問と異なることを理解する必要があります。
10年以上前、地球環境問題が話題になり始めたころなのですが、こんな笑い話を聞いたことがありました。そのころ、フロンガスによるオゾン層の破壊が問題になっていたのですが、某工学部教授が「なら、大気圏にオゾンを撒けば問題は解決するだろう。」といったらしいのです。これは、おそらく作り話なのでしょうが、当時の工学部にあった典型的な対処療法的な発想を示すものでした。これを非難するのは簡単なのですが、これから脱却するのは容易ではありません。理系の学問は(文系の学問でもそうなのかもしれませんが)、細かい部分にとらわれて、全体との関係をつい忘れてしまうのです。
以前提出して頂いた志望理由書で、ステビアとダイオキシンのファイトレメディエーションの関係を述べた関係を述べていましたが、これも似た問題になります。ある目的(ダイオキシンのファイトレメディエーション)を達成するのに、どの次元でステビアを研究するのか一番適切なのかということを検討することなしに、ただステビアのことを研究しても、目的が簡単に達成するわけではありません。問題の全体との関係で、「研究の順序」や「必要な精度」などが決まってくるのです。
話しが少し逸脱してしまいました。深く探求しなければ学問とは言えませんが、ある部分にとらわれてそればかり探求していると、往々にして問題の全体を見失うことになります。環境学ではこれを避けなければなりません。研究をして、学術誌に成果を公表されることを持って満足しないでもらいたいと思います。実験系の研究室ですから、どうしても細かい部分にこだわらないと研究になりません。しかし、環境学の学科にいる以上は、その研究が、(地球)環境問題の中でどのような位置づけになっているのか、何をすることが求められているのかということを忘れないで頂きたいのです。これがシステム的なアプローチをするということ(=大学の求める学生像)です。

そろそろ結論を述べましょう。小論文で書くべき内容は、次のようになります。
Ⅰ.環境問題に対して、一定水準の理解があること(→大学院教育を受けるにふさわしい知性があることが示す)
Ⅱ.その中で、大学の研究が果たす役割を理解していること
Ⅱ.ⅰ 環境学大講座に属する各研究室の役割分担(環境学大講座としてまとまっていることの意義)
Ⅱ.ⅱ 実験系の研究室がその中で果たす役割を述べること(技術開発や実地調査の意義)

本来どのような意見を持とうが自由なのですが、大学院入学試験の性格上、小論文を通して、志望する学科・研究室で研究する意義を見出していることを採点官に伝えることが必要になってきます。
既に知っているかも知れませんが、少し時間をかけて大学のホームページを見てみればいいのではないでしょうか。念のためにURLを記しておきます。
http://www.k.u-tokyo.ac.jp/renewal/course_kankyo/senkou.html
それぞれの研究室でどのような研究が行われているか詳しく覚える必要はありませんが、研究室間の関係や、複眼的な視点を持てるように努力してみて下さい。

以上のことを踏まえて添削をして参ります。

設問:「空気中の温室効果ガスを低下させる方法について述べよ」

上記のコメントを参考に今回の設問で答案に盛り込むべき内容を考えてみましょう。
Ⅰ. 温室効果ガスとは何か、温室効果ガスにどのような物質が含まれるか、その中で、どの物質が温室効果に大きく影響しているのか
Ⅱ.ⅰ 温室効果ガスを低下させるにはどのようなアプローチが考えられるか(またその中で大学の果たす役割は何か)
Ⅱ.ⅱ 技術開発や実体調査の必要はないのか、また今までの技術開発や実体調査から何がわかったか

論文の構成は自由ですが、上記の内容をなるべく答案に盛り込むようにしたいです。
提出された答案は、政策面から対策を述べており、技術開発の必要性を論じていません。
政策を変えることだけで問題が解決されてしまうのなら、志望する研究室に進む意味が
なくなってしまうのではないでしょうか。


個別のコメント

a:論文に盛り込むべき内容Ⅰについて触れています。字数に余裕があれば、他の温室効果ガス(メタンガス、フロン等)について軽くふれておくのもいいでしょう。
「温室効果」というのは今ではかなり有名になっていますが、そのメカニズムを簡単に説明しておいてもいいでしょう。
b:新エネルギーの利用について述べています。広い視野を示している(論文に盛り込むべき内容Ⅱ.ⅰ)は評価できるのですが、本当に、政策を変えるだけで導入できるのでしょうか。再生可能エネルギーについて論じた別の設問があるので、そこでこの問題については説明します。
c:技術が未熟なために、経済性の面で問題が残っていると考えることもできます。実験系の研究室を志望するなら、そのような書き方をするべきです(答案に盛り込むべき内容Ⅱ.ⅱ)。できればどのような技術的な問題が残っているのか詳しく述べるべきです。いつまでも非効率な技術であれば、補助金を与える根拠がなくなってしまいます。例えば次のようにしてみてはどうでしょうか。

経済的に成立するほど効率的な技術はいまだ完成されていないので

d:エネルギーの需要を抑えることで別の問題が生じることにも注意したいですが(例えば、経済の発展が阻害されるなど)。この字数で盛り込むのは難しいかもしれません。
志望される研究室との関係で考えると、「エネルギーの需要を抑えること」は軽く触れておけばいいでしょう。
e:よく勉強されていますね。このように具体的な数字を盛り込むことで答案に説得力が出ます。積極的に盛り込むべきです。技術についてふれた文章を中心にして、このような書き方ができるのが理想です。
f:駄目な表現の典型例です。何も説明していません。思い切った試みが何か説明する必要が生じるからです。感情的な表現ではなく、論理的な表現に徹するべきです。段落自体を削った方がいいでしょう。経済との関連を述べるなら、dの部分に入れるべきです。


上記コメントを参考にして答案を修正し、再提出して下さい。

西早稲田教育研究所
担当 中島泰平


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