合格者の添削例(京大:英文課題)

R・Kさん 京都大学経済学部前期論文型 論文Ⅱ(英文課題)

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英文の読み取りに不安を抱いていらっしゃるとのこと、通信欄にお書き込み頂きました。確かに、部分的には読み取れているものの、課題文全体の関係は明確に読み取れていないようです。ただ、これは京大の要求しているレベルが相当に高度であることにも起因するものですから、この問題が解けないからといって、さほど悲観することはありません。難しければ、初めのうちは辞書を引きながら取り組むことをお勧めします。

この課題文を難しく感じるのは、それが高校卒業程度の予備知識では対応することが難しい概念の関係を提示しているからです。今回は「現代社会を覆っている野蛮」について書かれていますが、これを理解するには世界がどのように動いてきたかといった世界史的な知識に加え、社会の現状等の時事的な知識や、哲学分野で現代社会がどのように分析されているかといった、倫理的な知識も動員しなければなりません。

こうした一つの分野に限定されない横断的な知の用い方は、高等学校ではあまり鍛えられませんので、京大の課題文は非常に難しいものに感じられてしまうのです。
 逆に言えば、こうした思考体系が解答者のなかに構築されていれば、今回の課題文はさほど難しく感じなかったはずです。それを証するように、この課題文で用いられている英単語や文章構造は、さほど専門的で難解なものではありませんし、2、3の専門用語には、注釈が設けられていますね。「何が書かれているか分からない」のは、英文読解の力が不足しているわけではなく、読み取った英語を日本語で正確な概念に置き換えることができないからでしょう。


個別のコメント

設問1
 野蛮の2つの意味について、その定義は大まかには読み取れているようです。しかし、事例を用いた具体的な説明部分についての解釈を大きく誤ってしまいました。そのため、2つの意味を正確に把握することができなくなってしまったのだと思われます。
 簡潔に言えば、筆者は20世紀から増大する野蛮の意味として、「1.各社会における社会規範や道徳体系の混乱と崩壊」「2.18世紀啓蒙期に掲げられた人間性の合理的進歩(自由、平等、幸福追求、博愛など)に至る道程の逆行」を挙げています。

a:英文解釈上の誤りです。これはおそらく、「to a lesser extent」にあたる日本語だと思いますが、これはa'で示した部分、すなわち「between their members and those of other societies」を修飾しています。つまり、第1の野蛮の意味は、「社会内でその構成員同士の関係を規制し、それよりも程度は弱いが、自社会の構成員と他の社会の構成員との関係をも規制する、規範と道徳的行為の諸体系の分裂・崩壊」だということですね。
b:第1の意味の具体的事例を正確に把握できていません。ここは大幅な書き直しが必要でしょう。修正のポイントは以下に示しますが、クルドゲリラと比較されているボスニアの事例では、合法的暴力(例えば武力や政治的圧力など)を独占していた国家の統制が消えたことによる混乱から、こうした暴力がその社会の構成員全体に行き渡り、それを自らの欲望のままに行使することが許される状態になったことを示して頂きたいところです。
c:これが誰の著作かなどは、問いの本筋から外れた些末事ですから、説明する必要はありません。
d:誤訳ですね。「Kurdistan」は「クルディスタン」と訳すべきです。また、中でも話題が「Kurdish guerrillas」に限定されていますから、ここは「クルドゲリラの銃文化」とすべきでしょう。
e:ここで指摘すべき重要な概念は、「The accent of meaning in the culture of the gun thus stresses responsibility, sobriety, tragic duty.」です。すなわち、クルドゲリラの銃文化では、銃を持つということは、子どもが立派な大人の男として、責任や冷静さ、義務を担うことの証だというわけですね。
f:誤訳も含め、課題文内の概念が未整理のまま展開された結果、結果として日本語としての意味をなさない文章になってしまいました。
 ここではクルドゲリラの銃文化と比較すべき「ボスニアの検問所」の事例を述べて頂きたいのですが、それは簡潔に言えば、先に述べたように、国家による合法的暴力の独占が崩壊した結果、規制が失われ、こうした暴力が個人レベルでも展開されるようになったことです(1945年とは、こうした合法的暴力が国家により独占されるようになった年を示します)。また、ボスニアの若者にとって、銃を手にするということは、「人を死に至らしめる(絶大な)力」を手にしたということであり、「その行使への抗いがたい、半ば性的な欲望(課題文では検問所での性的暴行を示唆する記述はありません)」から、「helpless(=無力な人びと)に恐怖を与えるために銃を用いる」という関係になっています。
g:課題文通りの概念の関係を再現できていません。この、第2の意味について述べている部分は、修飾語句が非常に多いため、あるいは意味が取りにくかったかもしれません。
 「Life, Liberty and pursuit of Happiness, to Equality, Liberty and Fraternity or whatever」は、「universal system of such rules and standards of moral behaviour, embodied in the instututes of states dedicated to rational progress of humanity」の具体的な事例です。つまり、「人間性の合理的進歩に献身的な国家の制度上に体現(=embodied)されている、規律と道徳的行動の基準の普遍的体系」の一例が、「生命、自由、幸福の追求」や「平等、自由、博愛(友愛)」などといったものだ、という関係になっています。前者がアメリカ独立宣言の一節であり、後者がフランス革命の精神を表したものだということが分かれば、この文章の意味がより理解しやすくなるでしょうか。
 こうしたものを構築することが、「18世紀の啓蒙活動」であり、それと逆行するような状況が、ここで言う「野蛮の第2の意味」なのです。
h:「我々の生活の悪い点を補う」では、課題文の内容通りの記述とは言えません。この2つが、我々の生活に対して悪影響をもたらし、その影響を相互に増幅しあっているという関係が明確になるように、記述を改めましょう。
i:中途半端な考察で終わってしまいましたね。再提出の際は、全面的に考察の方向性を変えて頂くことになると思います。例えば、hで示した筆者の見解について、その妥当性を、事例をもとに検証することなどが考えられるでしょう。例えば、ボスニアの事例では、暴力を戒める社会規範や制度が崩壊してしまうと同時に、helplessの人権が顧慮されない状況でした。このように、第1の野蛮と第2の野蛮が増幅し合い、自らの欲望のまま、自身の絶対的な力を誇示するために弱者へ暴力がふるわれるという惨事が起こっているという解釈が可能です。
 他にも考え方はあるかと思いますが、一例を示しておきましたので、参考にして下さい。

設問2
 解答作成のために課題文のどの部分を抽出すればよいかについては、把握されていらっしゃいます。しかし、概念の取りこぼしや誤訳、課題文と異なる概念の関係性を提示してしまった箇所があります。合格圏には近い段階にあると言えますが、文句なしの合格答案とすることはできません。

a:これは、「啓蒙的活動」の説明です。ここでは「啓蒙思想の意義」に記述を限定しましょう。具体的には、「As to the second form of ~」で始まるパラグラフの内容に絞って、答案を作成する必要があります。
b:ここでの解答のポイントを述べますので、再提出の際の参考にして下さい。まず、筆者が考える啓蒙思想の意義は大きく分けて3つあります。その点が明確になるように答案を作成する必要があります。
 第1の意義は、「the only foundation for all the aspirations to build societies fit for all human beings to live in anywhere on this Earth」「(the only foundation ) for the assertion and defence of their human rights as persons」から導き出されるものです。啓蒙思想は、「この地球上のどこに暮らす人類であろうと、その全てに適応する社会を築こうとする全ての熱望にとって、また個人の人権の主張と擁護にとって、唯一の基礎」なのだと筆者は言います。啓蒙思想のこうした普遍性と、内包している人権概念とに、まず筆者は大きな意義を見出していますね。
 第2の意義は、「the progress of civility which took place from the eighteenth century until the early twentieth was achieved overwhelmingly or entirely under the influence of the Enlightment」に関わるものです。つまり、近代市民社会の発展は啓蒙思想の強い影響下にあったということですね。これを遂行した啓蒙専制主義者、革命家、改革者、自由主義者、社会主義者、共産主義者は全て同じ知的な体系に属するとも述べています。このように筆者は、啓蒙思想に対して、近代市民社会成立の基盤という意義を認めています。
 第3に、「only criterion which allows us to judge rather than merely to record the consequent descent into barbarism is the old rationalism of Enlightment」という部分です。「野蛮への転落を記録するだけでなく、その審判を可能にさせる唯一の基準こそが、啓蒙主義の古い合理主義」だと言っていますね。つまり、啓蒙思想の現代での意義について、ここで筆者は述べているわけです。
 以上を参考にして、答案のこの部分を再度書き改めてみて下さい。
c:これは、筆者が啓蒙主義を軽んじる現在の風潮に譲歩して述べたものです。筆者が考える「啓蒙主義の意義」の説明としては、不要な部分ですね。
d:bのヒント、第1の意義の部分を参考に、筆者の言わんとするところを正確に記述して下さい。
e:これは近代市民社会の発展を成し遂げた人びとの呼称について、筆者がある種の思いを込めて付した修飾的な部分です。c同様、筆者が考える「啓蒙主義の意義」の説明としては、不要なものですね。
f:bのヒント、第2の意義の部分を参考に、筆者の言わんとするところを正確に記述して下さい。
g:ここでは「堕落」と解釈するべきでしょう。
h:判断ではなく「審判」という解釈が妥当だと考えます。野蛮への堕落を記録するだけでなく、その正否を裁くこと(=審判)ができるのが啓蒙主義の合理主義なのだということですね。
i:これらのことが、啓蒙思想の現代的意義であることを併せて述べたいところです。

設問3
 行為基準の転換に話題が終始してしまっています。その結果、重複する概念の記述が目立ちますし、冗長な表現になってしまいました。
 筆者は、なぜ1914年が転換点となったのかについて理由を挙げて説明しながら、転換の経緯も説明していますね。こちらも解答に盛り込んで下さい。

*:「行為基準の転換」に関する具体的な事例は、できる限り省きましょう。その結果できた字数の余裕を使って、「1914年が転換期となった理由」を述べて下さい。
a:冗長な表現です。別の表現を使って短く書くことができるならば、そのようにすべきでしょう。
b:設問の要求に応えるために重要な概念ではありません。ここでは、文明国家の軍隊は、捕虜を死に追いやったり、国々を荒廃させたりはしないことを当然視していたことを述べるだけで十分です。
c:重要概念を落としてしまいましたね。ここでは、文明国家=civilized statesを外してはいけません。課題文の主題である「野蛮」の対概念ですね。
d:数点修正の余地があります。まず、設問の要求を満たす概念以外は、記述を極力簡略化する必要があります。また、高校卒業段階では、フォークランド紛争や湾岸戦争などについては当然知っていると思われますから、「フランクランズ戦争」などの誤訳は、こうした最低限の知識不足を疑われるおそれがあり、答案の評価を著しく下げますので注意して下さい(ちなみに、Frederick Engelsはフリードリッヒ・エンゲルスのことです)。
e:civilizedを誤訳してしまいました。これは市民ではなく、「文明化された」という意味です。
 このことが明確になりますと、otherwiseについて、「文明化されていない状態では」という解釈ができますね。
f:「戦争は戦闘員に対して行われ、非戦闘員が暴力にさらされることはない」ということは、既に冒頭で述べられていますね。従って、同内容反復になりますので、この記述およびこの記述の補足説明は、全て不要となります。
 残った記述については、冒頭の一文につなげる形で修正して下さい。
g:ここで、1914年が転換期となった理由を述べましょう。「There are several reasons why ~」で始まるパラグラフの内容をまとめて下さい。理由は全部で5つあります。人名や具体的な事例の抽出に終始せず、この5つが明確になるよう説明を行って下さい。

設問4
 取り上げるべきパラグラフは間違っていないものの、説明として意味の通ったものになっていません。日本語として文意不通の箇所もあります。こうした点を修正し、課題文の英訳を機械的に行うのではなく、課題文の内容を把握した上で、設問の要求に沿った形でそれらを展開して頂きたいと思います。

a:まず、設問に沿った形で該当するパラグラフの内容を紹介しましょう。ここでは、第3段階と第4段階との間には明らかな違いがあることが示されています。この第4段階こそが「1980年代以降の野蛮化」にあたるわけですから、この違い、ひいては第4段階の特徴を明らかにするために、筆者はこうした年譜を示したとも考えられます。
 したがって、まず「筆者は1980年代以降の野蛮化の特徴を明らかにするため、野蛮化への転落の短い年譜を示している。」などの書き出しで、ここで4つの段階について述べることはどのような意味を持つのか、読み手に説明してはいかがでしょうか。
b:不足している概念を補った上で、事柄を整理して展開して下さい。現在の答案では、4つめの段階の具体的な時代区分が明らかではありません。解答者にとっては、これは設問に要求されている「1980年代以降」なのだから、自明のことだと思うかもしれませんが、これを答案内で明確にしない限りは、読み手には何のことだか分かりません。
 「4つの段階とその具体的な区分」を明らかにできたら、あとは、「第1~3段階までは、前段階の冷酷さを教訓とし、次なる野蛮化の基礎としていたためにある種の連続性が認められること」を指摘すればよいですね。
c:これは前段落にまとめて述べた方がよいでしょう。「第4段階が第1~第3段落とは一線を画するものであること」は、筆者が提示した年譜の分析にあたりますから、bの内容に含まれると考えます。
d:不要な記述です。
e:課題文通りの概念を伝えていません。ここでは、barbarousな人間の意思決定の事例が、the projects of Hitlerとterror of Stalinであり、lunaticな人間の意思決定の事例がarguments justifying the race to nuclear warであり、この両方の性質を併せ持つ人間の意思決定の事例がMao's Cultural Revolution(これは、毛沢東の文化大革命です。これも高校卒業程度の知識としては必要とされるものですね)という関係性になっています。従って、全てを「野蛮な者達の意思決定」とすることはできません。
f:課題文の構造を理解できているか、危ぶまれる記述です。1950年代の変容は第3段階で起こったものですね。ですから、第3段階と第4段階との相互関連を筆者は指摘しているのです。よって、ここで改段を設けるべきではありません。
 第3段階で劇的に崩壊した行動規範のもとで、人類社会はさらに崩壊を続けているわけですが、これが再び向上するという兆しが見られないということを筆者は指摘しています。


ご質問の件

英語が読めないというのは、おそらくは英文読解の知識がないからではなく、読み取った英語の意味を理解して、日本語の概念として再構築できない事にあると思います。
 ですからまずは、高校の教科書を読み、倫理や公民、世界史などの知識を蓄えておいて下さい。また、それらがどのような関係性をもっているかについても把握しておきましょう。
 その上で、入学試験に使われている英語長文読解の課題文にまとめて目を通しておき、その全訳を確認するという勉強をされるとよいでしょう。このとき、余力があれば、以下の学習方法にも挑戦してみて下さい。まず、英文だけを読み、パラグラフごとの内容を把握しながら大意を書き出します。次に、その全訳を参照しながら、先に書き出しておいた大意の内容を確認します。このとき、解釈を誤った語については、この場合の意味を覚えておくとともに、辞書も引き、なぜこうした訳になったのかを確認しておいてください。
 この作業を続けていれば、英文読解の時間はかなり短くなるはずです。  以上です。


西早稲田教育研究所
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担当太田 玲

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