合格者の添削例(京大)

H・Tさん 京都大学経済学部前期論文型

・添削本文

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・添削コメント

全体のコメント

初回の添削を受け、答案に盛り込むべき重要概念はほとんど盛り込むことができています。あるいはこの答案でも、実際にはギリギリで合格したかもしれないというレベルの出来映えでした。ただ、概念の関係性を正確に再現できていない、設問の要求に的確に答えられていないなど、修正すべき箇所はまだあります。この視点で添削を進めて参りますので、参考にして下さい。
また、H・T様は総じて、課題文の議論について、その前提部分と結論部分は的確に答案に反映できているのですが、その論証過程について誤解があったり、全く無視してしまったりといった問題があるようです。課題文の内容を説明する際には、論証過程は最も重要になってきます。このことは肝に銘じておいてください。


個別のコメント

設問1.
a 課題文通りの記述を心がけましょう。
b aと同様の修正です。
c 目的語が抜け、このままでは何を意味するのか、読み手に明らかではありません。丁寧に記述してください。深読みを読み手に強要するのは、論作文としてふさわしくありません。
d F、Eの関係を正確に記述できていません。Fは、Eに包含される理論ですが、お書きになった文章からは、F=Eという関係が読み取れてしまいます。
e 段落相互のつながりが悪くなっていますので、適切な接続語を補って双方の関係を明らかにする必要があります。これは、関係が言うまでもなく明らかである場合を除いて、論旨明快な論作文の鉄則です。
f dと同様の修正です。 F、Oの関係を正確に記述できていません。Fは、Oに包含される理論ですが、お書きになった文章からは、F=Oという関係が読み取れてしまいます。

設問2.
a 前回指摘した、Bの説明のための最低限の概念は抽出できているのですが、残念ながらまだ十分ではありません。また、それらの関係性を適切に記述できていません。前回「課題文の文脈で」説明して頂くようお願いしましたが、その点に問題があるということです。修正例としては、以下のようなものが考えられます。

Bは、ある特定の社会の結果を規定する過程を検討し、その過程における各個人の行為の価値を見極め、さらに当事者の行為の妥当性を以てその結果が公正なものであるかどうかを判断するという点で、EかつPである経済的正義論である。この考え方のもとでは、他者の行動に対する評価は、自分がその立場にあればどう行動するかという置き換えによる。置き換えてみて自分も同じ行動をとるならば、他者のその行動は、非難されない正当な行為と判断される。社会全体でこうなれば、他者の行為とそのもたらす結果は普遍的な正当性を持つが、実際この普遍性は評価に関わる人々の間でのみ成立するため、これらの人々の間で正当化された行為が、外的で絶対的な倫理規範に反することもある。なお、Bは無法を正当化するわけではなく、違法が重なれば法や制度が変更されるべきものと考える。こうした考え方は、自由市場を成立させる合理的仮説に基づく行為の妥当性を判断する際に、自然に用いられるはずのものだ。(419字)

b 自由市場の支持者とBの関係について、課題文通りの指摘ができていません。「行うのに当然」なのではなく、「自由市場の公理に矛盾しないので、Bの考え方を受け入れられる」という関係です。また課題文では、「財産権の侵害を正当化する」ではなく、「…を責められない」という記述になっている点にも注意が必要です。さて、そうなると、この部分は以下のように修正すべきだということになります。

筆者は、自由市場の支持者にとっては、上記の通り(aの修正に合わせます)自由市場の公理に矛盾しないBの理論は受け入れられうるが、その場合他方で財産権の侵害も容認してしまうことになると指摘する。(83字)

なお、propertyrightは、前回も申し上げましたが、「財産権」と訳すべきです。設問の指示通りの記述を心がけましょう。
c 答案に不要な概念が多い箇所です。本来ならば、ここまで財産権侵害の過程を説明するだけの字数の余裕はないのですが、おそらくお書きになった答案では、Bの内容について説明不足だったため、そのスペースが生じてしまったのでしょう。
aの修正がありますので、この部分は記述を簡略化する必要があります。なお、改行する必要もないでしょう。

つまりBの理論では、極端な所得格差がある場合、生活に困窮した者が盗みにより所得を得ることを容認してしまうのである。なぜなら、貧しい者と同じ立場にあれば、誰もが彼と同じことをする可能性を否定できないからである。さらに、いかなる社会制度も人を犯罪者に仕立て上げる権利は持たないから、Bの理論に基づいたこの行動を責める権利は社会制度自体にはない。(170字)

d cの内容が大きく変わりますので、この部分は不要になります。割愛しましょう。
e 実際に財産権の侵害が起こるかどうかは問題にされていません。これはあくまで抽象的な推論の域を出ていないからです。

設問3.
a Rに関して、盛り込むべき概念は抽出できていますが、それらの関係性をうまく再現できていません。そのため、記述が読み手にわかりにくくなっていますし、不要な重複も見られます。この部分を整理して展開すると、以下のようになるでしょう。

Rとは、例え社会全体の経済力が低下するとしても、社会が構成員全体の収入を作り出すために利用している規則を、最も冷遇されている社会の構成員の福祉を向上させるよう変えるべきであるという、ロールズによって提唱された理論である。この理論の正当性は、「無知のベール」によって説明される。つまり、社会の構成員全員が、誰の能力が高く評価されるかを予め知らされていない状態で、かつ極端な所得格差が生じた場合、必ず困窮者によって個人の財産権が侵害されると知っているならば、どのような合意に達するかを考えればよいのである。(252字)

b 「大きい政府」=「福祉国家」ということは指摘できません。確かに福祉国家となるためには、大きい政府であることは必要ですが、大きい政府であることは、福祉国家であることを必ずしも意味しません。従って、ここは以下のように改めましょう。

なぜなら所得再分配のためには、構成員全体の所得の不均衡を正す存在が必要になるからだ。従って、応能負担を原則にした高い税率のもと、社会保障制度が充実した大きな政府が成立するだろう。(89字)

c bの修正で既に指摘しましたので、ここは割愛できますね。

d 前の段落と同様に、Rに沿って建設された社会についての説明ですから、ここは改行すべきではありません。
e cと同様の修正です。
f なぜXやOであってはならないのかを説明しなければ、この記述の正当性を判断できません。これに加えて、課題文5段落の記述を簡潔に記述しましょう。

なぜなら彼等は個人主義者として、公正に関する外部基準の押しつけを拒絶するし、同時に個人の財産権を侵害する結果の事前決定を拒絶するからだ。(68字)

g 数学の証明と小論文は異なります。ですから、数学の証明で使うような言い回しは避けて下さい。
h 重複するところが多い記述です。簡潔に述べることが出来るにもかかわらず、わざわざ無意味な記述を連ねるのは、文の印象を大きく損ないます。これは、本来書くべき自分の主張や意見、またその論証が足りないために、無用な言葉を入れておいただけ、との印象を読み手に与えかねません。書くべき事柄は必要なだけ書き、無くてもかまわない=文意が変化しない事柄は一切書かない、これは論作文の大原則なのです。


質問への返信

なお、通信欄でのお話について、少々コメントしておきます。
①時間について
提出して頂いた答案を拝見していますと、今の段階では、時間内に書くことよりも、課題文の内容を把握することの方が優先事項と思われます。全ての設問におざなりに答えるより、確実に課題文の見解を読み解いた上で、一つだけでも妥当な答案を書く方が、答案としての評価は高くなるでしょう。また、こうした複数の設問がある問題では、大体において、それぞれの質問が相互に連携しているものです。ですから、前の答案でミスをしてしまえば、続く設問は全て解答不能となってしまうのです。このことを忘れず、まずは焦らずじっくりと、課題文理解の訓練をすることから始めて下さい。
長尾先生の『小論文を学ぶ』を読んでいらっしゃるとのことですから、課題文・設問文理解の重要性は、おそらくご理解頂けることと思います。

②内容について
[A][B]それぞれの見解を、やや型にはめて見過ぎているきらいがあります。[B]は決して、ゲマインシャフト的な見方と断定できるわけではありません。「自由への逃走」は、契約型社会という新しい局面を迎えた社会と、未だ人々の心理に残る、旧来の共同体重視的なものとの摩擦・軋轢から生じるとフロムは述べています。その意味で、やはり[B]は、両者を内包していると言えるのです。
いずれにせよ、これほど長大な課題文を一言で定義するのは至難の業です。ですから、これはこう、という断定的な見方をせず、あくまでも課題文の中にある重要概念同士を連携させ、要旨を読み取るようにして下さい。

次に、質問についてお答えします。
①点数
繰り返すようですが、点数をつけることはしておりません。弊社では、課題文を正確に理解した上で、設問の要求に的確に答えた答案であれば間違いなく合格するという考え方で指導をしております。それ以外の答案は、全て0点なのです。従いまして、H・T様の答案も、課題文理解が正確でなかったことを考えますと、厳しいようですが0点となってしまうのです。
無論、実際の大学入試では、一定数の合格者を出さねばなりませんから、日本語としておかしな表現があれば○点減点、誤字は○点減点、などという形で、細かく点を規定しているでしょう。しかし、せっかく文章の論理構成力を高めるために受講されているのですから、この「運良く合格」という最低ラインを目指すのではなく、誰が見ても間違いなく合格という、「合格圏」のレベルを目指して頂きたいと思います。

②物事の見方について
「定石」というものに頼るのは大変危険だとご忠告しておきます。課題文が与えられている問題では、そこに書かれていることが思考の前提となります。従って、課題文がもし、これらの概念について通常とは異なる見解を持っていた場合、こうしたことを覚えていても、何の役にも立たないということになってしまうでしょう。ですから、なるべくこうした考え方は持たないようにして頂きたいものです。
これは何も、課題文に説得されることが必要だと言っているのではありません。課題文が設定する議論の場を読み取り、そこから離脱しないで論じよ、ということなのです。そのためには、ここで挙げられている概念についての理解は必要です。長尾先生の本を読むなどして、引き続き理解を深めて下さい。
「困ったら○○」的な、安易な気持ちで議論の場を設定すると、あとで手痛い失敗を被ることになるのです。そのことは、何とぞご理解ください。

以上です。


西早稲田教育研究所
大学別小論文講座
担当太田 玲

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