添削例:上智大学(外国語学部ロシア語学科推薦:2015年)

 18年同様、小論文出題ではない1~4については、誤答と思われる部分だけ指摘して、解説をしました。ノーコメントの箇所は、文句なしの正答です。
 小論文を書かなければならない5については、すこし詳しく触れておきます。提出いただいた答案は残念ながら合格圏外という評価になってしまいました。設問の要求を無視した答案になっているためです。
 まずは設問を確認致しましょう。「あなたの知っている外国語と日本語を比較対照しながら、日本語の特徴について考えるところを800字以内で書きなさい。」というのが設問です。したがって外国語との比較対照を行うことと、日本語の特徴について「考えるところ」を述べることの二つを最低限行う必要があります。
 さて提出していただいた答案を見ますと、日本語と外国語の比較をしている箇所は第三段落のほんの一部だけであり、他は設問の要求に関係のない話が書かれています。更に悪いことに、その残された第三段落の一部分も、論証としては失敗しており、解答者の意見が述べられているだけです。したがって採点という観点からすると拾える箇所はゼロに等しいと言わざるを得ません。
 非常に簡単に言ってしまうと、今回の設問で求められている答案の骨子は次のようなものです。

例:X語だと○○、でも同じことを表現する日本語だと××。ここから日本語には△△という特徴があると考えられる。

このような答案が求められていることをまずは設問文から読み取ってください。
 以下では答案の具体的な問題点を指摘しておりますが、設問の要求に応えるためには全面的に書き直すしかないと思います。したがって細かい点の指摘はいたしますものの、再提出に当たっては「X語だと○○、でも同じことを表現する日本語だと××。ここから日本語には△△という特徴があると考えられる。」というような骨子の答案を新しく書くように試みてください。その際には、恐らく最も取り上げやすいのは英語かと思います。

1.
 地理の問題ですが、高校地理の教材で十分ですから、地図帳などで確認しましょう。
(1)⑤タジキスタン:キリル文字ですとТоҷикистон、ローマ字ですとTajikistanですから、タジギスタンと濁音になることはありません。
(2)d(シルダリア川):cはシベリア低地のタイガ地帯から北極海に至ります。なお「2つの河川」とは、このシルダリアとaのアムダリアです。「ダリア」がこの地方のチュルク語で「河川」の意味なので、名称に共通部分があるのです。ここから、adどちらに候補が絞れるはずです。
(3)a(アムダリア川):(2)の解説で述べましたように、候補はadしかありません。
(4)e(綿花):dの茶は、中国南部・インド(アッサム・スリランカ)など、温暖で雨の多い地域が主産地です。中央アジアは茶の栽培に不適です。その他の作物がロシア地域に産地があるのか、ある場合にはそれはどこか、確認しておくと良いでしょう。

2.
 ここは全問正解です。高校日本史分野である日露関係・日ソ関係は得意なようですね。
3.
(2)e(北京条約):高校世界史ではいくつか重要な「北京条約」がありますので、整理しておきましょう。dのネルチンスク条約は1689年で、中国(清)側優位の条約です。

4.
(9)d(ソルジェニーツィン):サハロフは物理学者であり、水爆の開発に関係しました。

5.
 ここは、通常の添削として扱います。

(解答本文は省略

(添削コメント)
A:文字は言語ではないと述べられています。しかしこれは誤りと言わざるを得ません。例えば病気などで口をきけない人はたくさんいるものの、彼らと私たちは筆談によって意思疎通できます。これは間違いなく言語(文字)によるコミュニケーションです。また、もし文字が言語でないとすると、この添削の文章も、提出いただいた答案も、言語で書かれていないことになります。これは言語という概念の意味からして変です。
 答案では言語ということで話し言葉を考えていたのかもしれません。しかし、設問では話し言葉に限定するようには要求されておらず、日本語と外国語という単位(どちらも書き言葉や話し言葉を含む)での論述が要求されています。したがって言語を話し言葉に限定することは、設問の要求を外すことに繋がります。
B:設問の要求に関係ないので削除です。
C:設問の要求に関係ないので削除です。
D:ここだけが答案の中で設問の要求に関連する箇所です。しかし論証としては失敗しています。まず「英語やドイツ語、スウェーデン語は同じゲルマン語系から派生した言葉である。それ故、少し似ていたりする」とあるものの、どこがどのように似ているのでしょうか。例えばドイツ語は名詞の頭文字が必ず大文字になる規則、名詞が格変化する規則、助動詞が使われる場合は動詞は文の最後に来る規則などがあります。しかしこれらの規則は英語にはありません。その意味では全然似ていないとも言えてしまうのです。単に「少し似ていたりする」と言うだけでは、何も明らかになっていません。何がどのような点で似ているのかを論じる必要があります。また、そもそも外国語同士の比較は設問は要求していません。
 次に「日本語は他の言語と比較して、特有の言語ではないかと思う。例えば、日本語の比喩表現や敬語は日本語特有のものである。日本語は、他の言語よりも独特で複雑だと考える。」とされています。しかしこれも論証できていません。まず、ちょっと検索してみればすぐに分かるように、比喩や敬語は英語にも(当然他の言語にも)あります。したがって日本語に比喩や敬語があることから、日本語が独特だとは言えませんし、ましてや複雑だとも言えません。つまり、ここでは間違った思い込みから間違った結論が述べられています。
 このように、答案において唯一設問に関係する箇所も、論証としては破綻しています。
E:設問の要求に関係ないので削除です。

 再提出のためには、とにかく設問の要求に応えるしかありません。1番簡単な方針は、英語と日本語を比較して、日本語の特徴を論じることです。例えば英語にも日本語にも敬語はあります。しかし、敬語の種類という点で見れば、日本語には多くの敬語があるように思われます。尊敬語、謙譲語、丁寧語の三種類が日本語にはあるのに対して、英語にはその対応物はありません。こうした英語との比較対照ができます。
 しかしここで終わってはいけません。ここから日本語の特徴を考えることが設問の要求です。例えば次のように考えることができます。三種類の敬語が存在することで、日本語は相手と自分の関係を明示する機能を持ちます。尊敬語は相手を立てるものであり、謙譲語は自分を下げるものです。こうした相手との関係の明示が日本語の特徴だと言えそうです。
 再提出時にはこの方針に則して書いていただいても構いませんし、他の方針でも結構です。いずれにせよ、設問の要求には正確に応えることを忘れないでください。
 以上を参考にして、再提出してください。